Report 8   思わぬご褒美


 校長室の扉を開ける雅貴。
 そこに、思わぬ人物が待っていた。
 校長がいるのはもちろんだが、その前の応接セットに座っている4人。
 一人は以前あったことがある。というか、雅貴のSEPとしてのボスである大沢 令刑事局長。
 その隣に座っている一人は何かの大事件のニュースで見たことがある。警視総監だ。
 大沢刑事局長の前に座っているのは、県知事。そのまた隣、警視総監の向かい側は市長。
 つまり今、雅貴の目の前には結構なお偉方がそろっているのだ。
「あの……一体これは……。」
 雅貴の問いに校長は答えた。
「羽丘君。君は昨日なんだか怪盗とかいうのと一戦交えたそうじゃないか。」
 それに、刑事局長が続ける。
「ルージュ・ピジョンと言うのは世界を股にかけた泥棒で、今まで失敗は一度も無いんだ。」
 隣の警視総監がうなずく。そして言う。
「その犯行を阻止しただけでも、警視総監賞ものだよ。しかも民間で。」
 その言葉に続けるように県知事。
「そこでだ。われわれは、警視総監賞並びに県・市よりの感謝状、それから、さらに……。」
「ちょっと待ってください!」
 県知事の言葉を遮る雅貴。
「何か不満かね?先代の市長に倣おうと思ったのだが。」
 そう雅貴に言う市長。現在の市長は、雅貴の父親の時代の市長ではない。すでに代替わりしている。
 その市長の言葉に雅貴は、
「俺…いや、僕はSEPとして当然のことをしただけです。そんな、賞なんてもらえるような……。」
「いや、SEPだからだよ。」
 大沢刑事局長が言う。
「これで、SEPの力量がはっきりと世間に知れたことになる。まあ、しばらく我々に対する風当たりは
 強かろうが。」
「それに、我々としても君に頼みたいことがあるのだ。実は……。」
 刑事局長の言葉の後に響く県知事の言葉。それを受け継ぎ市長が言う。
「実は、君にピジョン・ルージュの特殊専任捜査官となってもらいたいのだ。」
 一瞬、雅貴の頭の中が真っ白になった。
「……………………………はい?」
 思わず間抜けな声を上げる雅貴。その意味をきちんと理解するのに、数秒の間を要した。
 そして、理解した瞬間口から出た言葉。
「本気ですか?」
 全員が声を合わせて言う。
『本気だよ。』
「だって、俺……いや、僕はルージュ・ピジョンの犯行をなんとか阻止はしましたけど捕まえること
 は……。」
 雅貴がうろたえた声で言うと、市長。
「だからこそ、今度こそ捕まえてほしいのだ。期待しているよ。」
 そして、県知事。
「嫌かね?専任捜査官となることが。」
 雅貴は、それを聞いて首をとんでもない勢いで横に振った。目が回るほどに。
 そして叫ぶ。
「いいえ!ぜひやらせていただきます!あいつは、前回の犯行の時、俺に『次からは最初からあなたが相
 手』と挑戦状を叩き付けたんです!売られた喧嘩は買います!彼女は俺が捕まえます!」
 興奮のあまり、一人称が『俺』に戻っている。
 そんな雅貴を見て、市長がにこやかな顔で言う。
「それでこそ、アスカJr.の息子。さすがは3代目アスカだ。」
 そして、警視総監が自分の座っている椅子の横においてあるかばんを持ち上げ、開く。
 中から出てきたのは、勲章と賞状。
「羽丘雅貴君。君の活躍により、一つの犯罪を防げた。ここに、私、警視総監加山和俊は、感謝の意を
 表し警視総監賞とともに金一封と勲章を授与する。」
 そして、市長も同じように賞状を取り出して言う。
「羽丘雅貴君。私も同じく君に感謝の意を表し、ここに感謝状を進呈しよう。」
 そして県知事。
「同じようなことをうだうだやる気はないからな。感謝の意を表してこの感謝状を進呈する。
 それと……。」
 そう言って、知事は懐から一枚のカードを取り出す。
「いま、SEPのIDカードを持っているかね?」
 その言葉に、雅貴は自分のズボンのポケットに手を入れて生徒手帳を取り出し、はさんであるSEPのID
カードを取り出す。
「ここに。確かにあります。」
 そう。雅貴の持つ、SEPのグリーン・カード。
 それは、法に制限されない捜査の自由と機密レベルの如何に関わらぬ情報提示を求めることのできる
証。
 そして、それを公共の為にしか使わないことの誓いのカードでもある。
 このカードに、助けられた事は良くあることだった。
 左上に自分の写真があり、その横には大きくSEPのロゴが書かれてある。更にその横は特殊光線を当て
るとICPOと国連のマークが浮き出る領域がある。
 SEPロゴと特殊光線照射領域の下には、雅貴のIDナンバーが記されている。
 更にその下。写真とIDナンバーの下には、羽丘雅貴の名前が英語と漢字で記されている。
 名前の下には、磁気リーダーがあり、大抵の施設はこのカードで素通りできるようになっている。
 無論、公共交通機関も非常時の素通りが可能になる。
 そんな、数知れない権限を持つカード。それを雅貴は取り出す。
 それを見て、知事は満足そうに笑う。
「よろしい。では、さっそくこれからSEPカードの更新式を開始する。」
 雅貴は、驚いた。SEPカードの更新はたった数回。それは学校、名前などのパーソナルデータが変化し
た時にかぎられる。
「では、雅貴君。前へ。」
「はい。」
 知事に言われて前に出る雅貴。
「SEPのすべては、世に集う人々を凶悪犯罪の牙から守る為。」
 知事の言葉が、校長室に朗々と響く。
「そして、公共の福祉といま目の前にある平和の為に。」
 そこで知事の言葉が止まる。雅貴はすかさず言う。
「私は、人間のもてるすべての尊厳と誓いをもって、自身の力を出します。」
 そして、SEPのグリーン・カードを知事に差し出す。
 知事はそれを受け取ると、代わりに自分が懐から出したカードを雅貴に差し出す。
 雅貴はそれを受け取らず、知事の言葉を待った。
 そして、知事の言葉が響く。
「飛鳥雅貴。SEP R カードを授与する。」
 雅貴は、それを受け取り、カードを持ったままの手で敬礼する。
 知事、刑事局長、警視総監、市長、ついでに校長。
 全員に敬礼する。
 それで授与式が終わる。
 雅貴は、改めて受け取ったカードを見る。
 作りは以前とはあまり変わらない。ただし、色が違う。
 左上半分は軟らかなグリーン。以前のSEPIDカードと同じだ。だが、右下半分はルビー色をしている。
 そして、名前とその大きさが変わっている。
 羽丘と記されていた部分が飛鳥に変わり、大きさが少し小さくなってその事によって開いた名前の横
のスペースには目立つようにこう書かれていた。

            『Special Investigator for Rouge Pigeon』

 雅貴がそれを確認した時、知事は言う。
「そのカードが、そのままルージュ・ピジョン専任捜査官の証となる。そのカードは目立つからな。見
 せれば県民全員がルージュ・ピジョン逮捕に協力してくれるだろう。それから、君の名字変更は今日
 付けで認められた。」
 新しく付け加えられた表示。その意味は『ルージュ・ピジョンのための特別捜査官』と言うこと。
「頑張ってくれたまえ。三代目アスカ。アスカ3rd!」
 市長の台詞に、雅貴は勢いよく答えた。
「はいっ!もちろんです!」

© Kiyama Syuhei 木山秀平
© 立川 恵/講談社/ABC/電通/TMS
(asuka name copyright from「怪盗 セイント・テール」)
禁・無断転載