Report 7   やってきたトリックスター


 時間がやってきた。
 雅貴は、松平と一緒に絵の前にいる。
 いきなり、周囲の明かりが消え、真っ暗闇になる。
「あ、アスカ3rd!」
 松平の叫びに雅貴は落ち着いて指示を出す。
「非常電源をつけろ!それから持たせておいた懐中電灯!」
 全員が、指示どおり前もって持たされたペンライトを点ける。
 そして、その光が絵に向く。しかし----。
「ない!なくなっている!」
 松平が叫ぶ。
 そう。『光の情景』は跡形も無く額から抜かれていた。
 すると、どこからか声が飛ぶ。
「外だ!ルージュ・ピジョンが現れた!絵を持ってるぞ!」
 松平をはじめとする警官隊は、出口へ殺到する。
 雅貴は、ため息を吐きながら同じように出口へ向かう。
 空になった部屋の中。『光の情景』がかかっているパネルの裏から一人の少女がひょこりと顔を出す。
 昼間のうちにルージュ・ピジョンはここに潜入してたのだ。
「いろいろ考えてたみたいだけど、詰めが甘いのよね。しかし、何であの男子がいるのかな?」
 ルージュ・ピジョンはそう呟くと先ほどの一瞬の暗がりの間に額を貼り付けたパネルの色と同じ不透
明フィルムをはずす。
 そこには、依然変わらぬ『光の情景』の姿!
 パネルを飛び越え、絵の前に降り立つルージュ・ピジョン。
 額を外そうと近寄りながら呟く。
「毎度毎度思うんだけど、みんなよくこんな単純な手に引っ掛かるわね。」
 そして額に手を描けた瞬間、後ろから声が響く。
「そう。きわめて単純なマジックだ。」
 その瞬間、ルージュ・ピジョンの顔に驚愕の表情が浮かぶ。
 慌てて後ろを振り向くルージュ・ピジョン。
 そこにいるのは、アスカ3rd、雅貴!
「どうして……。」
 ルージュ・ピジョンの呟きに雅貴はゆっくりと言う。
「人間は、そこにあるはずのものが無いと一瞬パニックになり正常な思考能力をなくす。そんな固定観
 念の心理トリックを使った消失マジック、お見通しだよ。今時どこのマジックハウスでもやってない
 のに。」
「でもさっき、出ていったじゃない!」
 ルージュ・ピジョンの叫びに雅貴はさりげない口調で、
「ああ、あれね。すぐに分かったからだまされたふりをしたんだよ。そうすれば君はすぐに出てくる。
 俺は外に出たと見せかけて出口近くの陰に潜んでたんだ。」
 と言う。
「そんな……。あなた、何者?」
 ルージュ・ピジョンの問いに雅貴はにこやかに答えた。
「俺の名は、飛鳥雅貴。人呼んでアスカ3rd!」
「アスカ……3rd……。」
「ちなみに、その額は簡単に取れないぜ。仕掛けをしといたからね。」
 ルージュ・ピジョンは、それを聞くとクスクスケラケラ笑い出す。
「な、なにがおかしいんだ!」
 叫ぶ雅貴にルージュ・ピジョンは、
「面白いわ!ほんと、あなたみたいな捜査官、今までいなかった! O.K.今回は諦めましょう。」
 そう叫ぶと懐から玉を出し、叩き付けて煙幕を張る。
「しまった!くそ!逃がしてたまるか!」
 腕を前に出す雅貴。しかし、それは空振りに終わる。そして、後ろから聞こえてくる声。
「今度会う時は、最初からあなたが相手よ!じゃあね!アスカ3rd!」
 煙幕が晴れた時。そこには赤い羽根と一枚のカードがあった。
 カードを拾い上げる雅貴。

  『予告状

     明後日の0時ちょうど。羽丘さん宅に
     「セイント・テールのステッキ」頂きにあがります。

                怪盗 紅鳩(ルージュ・ピジョン)

       P.S.女の子に恥をかかせた礼は、しっかりさせてもらうわ!
         覚悟しなさいよ!
                                  』

「おいおいおいおいおい!勘弁してくれよ!」
 思わず、雅貴は叫んでいた。
 これは警察に訴え出るわけにも行かない。
 それだけでなく、なぜ彼女が家族ぐるみで秘密にしているものを知っているのか。
 謎だ。
 そして、さらに呟いた。
「このままじゃ引き下がれないとはいえ、何でこんな下らん物を盗むんだ?」

 翌日。
「聞いたぜ、三代目。あの警察でも手を焼いてるルージュ・ピジョンの犯行を阻止したんだって?」
 学校に着いた雅貴を待つのは、友人のそんな言葉。
「ああ。そうだけど……。」
 かばんを机の上に置きながら言う雅貴。さらに別の友人が声をかける。
「まじかよ!ルージュ・ピジョンって言えばアメリカでその腕をならした大怪盗じゃないか!」
「そうなのか?大滝。」
 その別の友人にたずねる雅貴。
「ああ。手口鮮やかにして神出鬼没!失敗した盗み無し。天下御免の大泥棒!ボトルメールで流した悩み
 をいったん受ければ依頼人の為に粉骨砕身!権力嫌いで警察を骨の髄までからかいまくる!」
 大滝は、立て板に水の勢いでしゃべり始める。
 雅貴の友人、大滝 涼。常人よりか少し犯罪に詳しい。
 ほっておいたらとことん知ったかぶりでしゃべり出す涼を、雅貴は慌てて止める。
「いい、いい!おまえの情報は未確認なものが多いから!」
 それにむっとしたか、涼はさらに知ったかぶりでしゃべろうとする。が、それは担任の到来で中断さ
れた。
 担任は、教壇に立つといきなり、
「羽丘、ちょっと、昼休み、食事が終わったら校長室に来てくれ。」
 と言う。雅貴は立ちあがり、
「今すぐじゃないんですか?」
 と尋ねる。しかし担任は、
「いや、長い話になりそうだから。」
 と答える。雅貴は不安にかられた。というのも、雅貴は今までにもいろいろと事件に手を出していて、
学校の印象が良くないからだ。
(いよいよ退学か?)
 そう心の中で呟く。
 そして、担任の話が終わり授業が始まる-----。

 昼休み。学生食堂にて。
 学食特製A定食をがっついていた雅貴のもとにクラスメートが近寄る。
「がんばれよ!」
 クラスメートはそう切り出した。
「はぁ?」
 疑問符を浮かべる雅貴に、クラスメートは更に言う。
「探偵止めんなよ!絶対に!先公どもに文句言わすなよ!」
「………。」
 無言の雅貴をほっといてクラスメートは言いたいだけ言うとさっさとどこかへ行ってしまった。
 次に先輩たちがやってきて、まったく同じ事を言う。
 無言のままで、雅貴は思っていた。
(無責任な!下手すりゃ退学するんだぞ!俺は!)

 そして、校長室に向かう。
 校長室前。運命の扉が開く。

© Kiyama Syuhei 木山秀平
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