Report 6    邂    逅


 雅貴の目の前にいる少女。見た感じは中学生ほど。
 右で括ってあるつややかな黒い髪の毛。
 そして、象徴的な紅の色の瞳。カラーコンタクトでは絶対に出ない自然の美。
 そう。新聞の情報を見るなら、彼女の名はルージュ・ピジョン。
 その紅の瞳こそ証。

 ルージュ・ピジョンは、雅貴をじっと見つめる。
 自分を追ってきた少年を。
 じっと見る。
 そのまっすぐな瞳。
 ずっと盗みを働いてきた自分にはまぶしすぎる瞳。
 そして----どこかひかれる瞳。

 ルージュ・ピジョンは懐から玉を出すとそのまま足元に叩き付ける。
 それと同時にサングラスをかけて。
 とたんに強烈な光が雅貴の眼をやいた。
「くっ!」
 目を覆う雅貴。
 その視力が回復した時、目の前にはもう誰もいなかった。
「やられた……。」
 雅貴の呟き。彼の肌を港の潮風が撫でた。

 ゴールデン・ウィーク明け。
 聖華市警・捜査2課長室。
 高宮リナ警視は-----燃え尽きていた。
 それはもう、見事に。とことん。決定的に。
 それほど、2回もルージュ・ピジョンにやられたのは彼女のプライドを粉々に粉砕したのだ。
「あの……警視……?」
 部下が声をかけるが、反応はない。
「もしもし……?」
「無理だよ、松平さん。そんな状態のリナおばさんには、何言っても無駄だって。」
 不意にかかる声に振り向く部下、松平。
「アスカ3rd!」
 叫ぶ部下。そう。2課長室の入り口には、雅貴が立っていたのだ。
「それよりも……今日もルージュ・ピジョンから来たの?予告状。」
 雅貴がそう言うと、松平は両の手を打ち言う。
「あ、それでここに来たんだった。実は、さっき来たんですよ。予告状。」
 その言葉に雅貴は言う。
「らっきー。ちょっと貸してくれ。」
 松平の手から封筒を取り上げる雅貴。
 封を開けて予告状を取り出す。

  『予告状

     明日、午後8時30分。高森デパート「近代巨匠展」にて、
     近代巨匠K.プルミエール作「光の情景」を頂きにあがります。

                 怪盗 紅鳩(ルージュ・ピジョン)

     P.S.しっかり警備してね(はぁと)
       ちゃんとやったら、ご褒美に返してあ・げ・る。    』

「あははははははは!なめてるなー。」
 大笑いする雅貴。それを聞いて松平。
「笑い事じゃありませんよ。アスカ3rd。これはジョークではなく完全な自信の裏打ちなんですよ?」
「ははは。悪い。」
 松平の台詞に謝る雅貴。そして、雅貴は言葉を続ける。
「今日の警備、俺も参加させてもらっていいかな。」
 その言葉を聞いて松平。
「本当ですか?それは願ってもない……。でも……。」
 そう言うと、松平は視線をいまだ壊れたままのリナに向ける。
「大丈夫!この状態じゃ、文句は言えないし、俺が言わさない!」
 そう叫ぶ雅貴。そして心の中で呟く。
(それに……SEPの権限においても、リナおばさんが文句を言える筋合いはないんだから。)
 その時、ふとリナの机にある封筒を見つける。
 よく見るとこう書いてある。

     『SEP特務事項』

 封筒を拾い上げ、開ける雅貴。
「あ、アスカ3rd!」
 松平の制止も聞かず、中身を読む。

『Students Exlent Police 最優先捜査事項

     ルージュ・ピジョン捕獲。

        ICPOより要請あり。至急、任務に当たること。

            刑事局長 大沢 令          』

「なるほどね。これで、非公式ながらも正式に調査できるわけだ。」
 雅貴は、にんまりと満面の笑みを浮かべた。

 さて、高森デパート。
 午後7時。
 雅貴を中心に包囲網が敷かれていく。
「ここにあるわけだ。パネル配置上、一番見通しがいいとこにある。」
 そばにいる松平が尋ねてくる。
「入り口から入って一番最初の広いスペースですね。」
「ああ。他の美術品を人質にさせない為に、ここにはこれ一つ残してある。」
 そう言って『光の情景』をぽんぽんと気安く叩く。
「さて、見回るか。」
 いきなりの雅貴の台詞。松平は驚く。
「え!いいんですか?絵のそばにいなくて!」
 その言葉に雅貴。
「ピジョン・ルージュが今までに予告状の時刻を破ったことは?」
「ありませんけど。でも……。」
 その答えに満足したように雅貴は続ける。
「予告状に時刻を示すのには二通りある。一つは撹乱。そしてもう一つは自分の実力の意思表示。今ま
 でのことから見て、ピジョン・ルージュは間違いなく後者だ。だから、予告時刻が来るまでは大丈夫。
 で、問題は警官にすり替わられた場合だ。だから、見回りをしておく必要があるんだよ。それに、も
 しも盗まれたとしてもここの出口は出入り口の一つしかないんだ。搬入路も無いしな。」
「なるほど!それで、警備の警官もペアなんですね!」
 そう言う松平の頭をぎゅっと引っ張る。
「いででで!なにすんですか!」
 叫ぶ松平。それに雅貴は呟く。
「かつらじゃない。違うな。不自然に長い足でもなし。」
「当たり前です!」
 松平の苦情に雅貴。
「こうやって、変装かどうかを一応見分けておく必要があるのさ。」
 この後、二人は警備中の警官全員に髪を引っ張り、口を開けさせ、手帳を差し出させて写真との確認
をした。

 そして、時が過ぎ予告の時間-----。

© Kiyama Syuhei 木山秀平
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