Report 9 雅貴のバレンタイン・スタンス
とぼとぼ夕焼け道を行く幼なじみ3人組。
恋美はまだ学校に用があるとかで、校門で別れた。
「全く。今日は天中殺だ。」
雅貴が呟く。
その呟きを聞きつけて、光一。
「すまない。三代目。」
それを聞いた雅貴、慌てて両手を振って言う。
「いやいや、そういう事じゃなくてな。こう、振り回される日だったなって事。」
本人はフォローのつもりなのだろうが、まったくそうなってない。
「三代目ぇ。フォローになってないぜ。」
ポツリと呟く透。
雅貴は、人差し指でほっぺを軽く掻く。
その時である。
「あの、すいません。アスカ3rd.さん。」
振り向く雅貴。そこには、ショートボブの少女がいた。
もちろん雅貴にはその少女に思い当たる節はない。
少女は、聖ポーリア学院の中等部の制服を着ている。
ここまで来ると雅貴にもパターンが読めた。
「何でしょう?」
尋ねる雅貴。
それに少女は光一と透に目をやり、言う。
「人がいる所ではちょっと………。」
雅貴はため息をついて言う。
「分かりました。」
そして、光一と透に目配せする。
光一は頷いて透と共に先に行く。
透も、雅貴の言いたいことが良く分かっているからその光一の行動に何も言わない。
光一の例もある。何があるか分からないのだ。
もっとも、光一は雅貴の目配せの意味を取り違えている。
光一は「邪魔はしないでくれ」と言ったと思ったのだ。
「これで、君の話を聞くものは俺しかいなくなった。さて、聞きましょうか。」
雅貴は少女にそう言うと、ポケットからメモ帳を取り出す。
最も、これはあくまで用心のためで雅貴はこんなものは要らないことが良く分かっている。
案の定、少女は自分の持っているかばんの中からきれいにラッピングした箱を取り出す。
箱を両手で持って、少女は言う。
「あたし、大沢香鈴(おおさわ かりん)と言います。聖ポーリア学院中等部の2年生です。」
雅貴は、香鈴をじっと見ながら言う。
「それで?」
「先ほどの活躍。華麗でした。」
「ほう。」
「前々から、あなたのファンだったんです!ぜひこのチョコを受け取って下さい!」
そう言って、香鈴は箱を雅貴へ差し出す。
雅貴は、やっぱりと言う顔をしてため息を一つつく。
そして、しばらくの沈黙。
それは雅貴の言葉で破られた。
「………もらえないよ。ごめん。」
目を見開く香鈴。その瞳に涙が溜まる。
それを見て罪悪感に苛まれるのがいやだから、雅貴は香鈴に背を向ける。
「苦手なんだ、俺……。」
そこで言葉を切る。そして息を継いで続ける。
「そういうイベントにかこつけたプレゼントや告白のたぐいって………。」
本音である。もともとそういう特別なことをすると言うのが不思議でならない。
雅貴は、そういう人間なのだ。
そして雅貴の更なる一言。
「家族以外の誰からも、受け取ったことないよ………。実際、そーゆーの嫌いだし。」
香鈴は、それを聞いて言う。
「じゃあ……ずっとそうしてるつもりなんですか……?そんなの、悲しすぎます!可哀相すぎます!あな
たが………。」
雅貴は、その言葉にこう答える。
「どう言われようと……俺はこの主義、まだ崩すつもりはないんだ……。だから、君のチョコレートは
受け取れない。ごめん。」
香鈴がその身を翻し、駆けて行くのが気配で分かる。
雅貴はため息をついて呟いた。
「ごめんね。」
雅貴がいつもバレンタインデーにチョコを一つももらえない理由は、実はこういう事だったのである。
香鈴は、裏通りを駆けていく。
そしてぴたりと止まる。
香鈴は、裏通りの闇の中に問いかけた。
「いつから見ていたのかしら?バジリコ。」
闇の中から声が返ってくる。
「いつからなんて、どうでもいいじゃねぇか。お前も良くやるぜ。そのラムレーズンチョコケーキ、毒
入りだろうが。」
先ほどの涙はどこへやら。香鈴は手に持っている箱を近くのごみ箱に捨てる。そして、腰に手をやり
さらに言う。
「全く。失敗だったわね。」
「全くだ。あれでチョコを受けとらねぇとはな。筋金入りの馬鹿じゃねぇの?」
闇の奥から聞こえるバジリコの言葉に香鈴。
「案外と、読んでたのかもしれないわ。」
その言葉にバジリコは大笑いして言う。
「あれは、そういうタイプじゃねぇよ。ずっと監視してた俺には分かる。」
香鈴は口の端を歪めて言う。
「そうね。しかし、どちらにしてもアスカ3rd.は殺さねばならないのよ。いつかはね。」
「分かってるさ。やつはいつか我々の障害になる。そうだろう?」
香鈴はクスリと笑う。
そのあどけなさそうな顔にものすごく恐ろしい本性が隠されているなど、誰が気づくだろうか。
「本当に恐ろしい女だな。『カリン』よぉ。」
その言葉にカリンは呟く。
「全てはあのお方-----『プロフェッサー』のためよ。あたしはあのお方のためなら何にだって
なれるわ。」
そう呟くカリンに、バジリコは笑う。
そして言う。
「おぉ。恐い恐い。恋する女は命懸けだねぇ。」
「茶化すのはやめなさい。バジリコ。監視を続けることね。」
ものすごい迫力で静かに言うカリン。
「分かってるって。分かってますよぉ。香鈴お嬢。」
そして、バジリコの気配が消える。
カリンは裏通りを更に歩き、そしてどこかに消えた。
© Kiyama Syuhei 木山秀平
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