Report 9 一本に繋がっていく事象


 雅貴が警察署の会議室に帰ってくると、そこには書類の山が……。
「無い………。」
 ポツリと呟く雅貴。
 そして、ため息をついて言う。
「そうそううまく行くはずも無いか。」
 会議室の椅子を出して、座る。
 思わずあくびが出てくる。
 それもそうだろう。ずっと徹夜で起きどおしだ。
 『怪人○十面相』が何をやらかすかまだ解らないが、このまま黙ったままではいられない。
 雅貴自身は確かにそれが大した事ではないことを予測している。
 だが、大した事ではないと言う保証はと言われると、それはどこにも無い。
 それを考えて、少しだけ雅貴は重いため息をついた。
 ふと横を見ると、この街でSEPの任に当たっている藍がパイプ椅子の上で眠っている。
(やはりこの人もSEPだよな。こうしたところでもゆっくり眠ってられるんだから。)
 さして大した事でも根拠でもないが、そんな事を考えてみる。
 その時、会議室のドアが開いた。
 入って来たのは書類の束を抱えた慎太郎。
「アスカ3rd。新しい情報です。」
 慎太郎はそう言って、また新しい書類の束を雅貴の前に置く。
「すいません。松平さん。」
 雅貴はそう言うと、また目の前の○十面相に関係すると思われる書類と格闘する。
 それと同時に、藍も大きく伸びをして起きる。
 ゆっくりと周りを見回して、藍。書類を眺めている雅貴を見つけて慌てたように言う。
「すっ!!すいません!!飛鳥さん!!すっかり眠ってしまって……。」
 そんな彼女に雅貴。にこやかに笑って言う。
「いえ。別にいいですよ。元々俺が持ち込んだやっかいごとです。」
 そこで一旦ため息をつき、そしてきっぱりと雅貴は。
「だから、俺の謎はこの俺の手で解かせていただきますよ。」
 その言葉が出た瞬間に、妙なアラームがなる。
 なぜか藍は慌てて周囲を見回し、自分のポシェットを手にとって開ける。
 ポシェットの中からPHSを取り出して通話ボタンを押し、耳に当てる。
「もしもし、美作です。……あ、会長……。え??心当たりですか?ありますけど……。」
 PHSから話が続く。だが、その過程は雅貴たちにはよく解らない。
 しばらくして藍はPHSを切り、雅貴たちの顔を見つめる。
 その表情はあまりにも呆然としているものだった。
「どうしたんですか?美作さん。」
 尋ねる雅貴。
 目の前の書類は、あいもかわらず○十面相がらみと思われる軽犯罪の報告書。
 藍は、呆然とした表情のままで雅貴に言う。
「○十面相……。」
「???」
 藍の言葉に対し、雅貴の顔にはクエスチョンマークが浮かぶ。
「○十面相です……。彼の狙いが分かりました…………!」
 徹夜明けのあまりよく働かない頭。そこに降って沸いたようないきなりのことで、雅貴には藍の言っている
意味がすぐには分からなかった。
 だが、数秒間。間抜けな沈黙が続いた後で、雅貴はポツリと呟いた。
「冗談だろ?」
 だが、藍の面持ちがそれを否定している。
 藍は気の毒そうに雅貴に言う。
「違います。私たちの学校、明日地域の清掃美化活動があるんですけど、そのイベントを妨害するって。学校
 の方に連絡があったらしいんです。その……○十面相から。」
「何だって!?」
 驚く雅貴。藍は更に続ける。
「その地域の清掃活動ですけど、範囲は○×町の線路……つまり、飛鳥さんが『すっごく汚い』って言ってた
 あの線路脇をやることになってるんですよ……飛鳥さん?」
 藍の言葉を聞いて、今度は雅貴が呆然となる番だった。
 はじめからヒントは出されていた。
 『その街で最も醜いもの』が普通に考えれば思い当たらない街で、何が『醜いもの』かと言えば、それは雅
貴にとっても最も目につくべき物だったのだ。
 そうでなくては、彼が予告状を出した意味が無い。
 そしてそれは雅貴の目の前に提示されていた。
 だが、雅貴はそれを素通りしていた。
 雅貴は呆然としたままで呟いた。
「やられた……。気付くことができなかった……。」
 雅貴の心の中に、屈辱と敗北の文字が大きくのしかかっていた。

 和美はPHSの電源を切った。
「……かっちゃん、どう?美作さん。」
 尋ねる芳子に、和美。
「どうやら、向こうもあたしたちと同じ事やってたみたいよ。」
 そして、微笑んで言葉を続ける。
「偶然ってのは恐いわね。多分彼女、すぐここに来るわ。」
 和美はそこで不敵な笑みを浮かべた。
「○十面相……誰だか解らないけど、うちの学校をターゲットに狙った落とし前だけはつけてもらうわよ。」
 その笑みは、年頃の少女に似合いの笑みではない。
 見ているものに戦慄を与えずに入られないほどの苛烈な微笑みだ。
 彼女にそれを浮かべさせて今まで無事でいた人間はいない。
 芳子は、幼なじみとしてそれをよく知っている。
 だからこそ、芳子はため息をついた。
 そして心の中で呟く。
(あ〜あ。かっちゃん、本当に本気になっちゃって……。自分から不幸を招いちゃってるわけだから、○十面
 相さんも気の毒……いや、自業自得ってとこかな。)
 その時、喫茶『探偵事務所』のドアが開く。
「せんぱ〜〜〜い!!」
 きゃぴろり〜〜んとした声が喫茶店の中に響く。
 芳子と和美がドアの方に振り返ると、そこには3人ほどの少女がいた。
 最初の一人はショートカットの小柄で活発な少女。次の一人は芳子たちの背丈ほどのストレートロングの清
楚な少女。あともう一人は先の二人と比べて身長は中くらい。そして髪はみつあみふたまたお下げの女の子。
 芳子は嬉しそうに言う。
「来たわね。」
 3人とも、芳子率いる『少女探偵団』のメンバー。特に広報活動(会誌作り)を主な担当としている。
「はい。来ましたぁ。」
 お下げの子が舌足らずな調子で芳子たちにお辞儀する。
「で、先輩!!私たちに何のご用でしょうか!!何なりとお申しつけくださいっ!!」
 小柄な少女が活発に尋ねる。
 その様子に満足したように和美。
「大した事じゃないわ。あなたたちにお願いがあるのよ。」
 その言葉を皮切りに、和美は○十面相の予告状のことを話し出した。
 そして話を終えて和美はきっぱりと言う。
「あなたたちの使命は、我が校のイベントを○十面相から守ることよ!!いいわね!!」
 その力強い叫びに、少女たちは叫ぶ。
「はい!!わかりました、生徒会長!!」

 起きてからもう5時間が経っている。
 今、朝の10時だ。
 思ったよりペースは速い。
 そして何より、朝の運動は気持ちいい。
 こんなに朝が気持ちいいものだったなんて、知らなかった。
 今度から、ぎりぎりで起きるのをやめて、朝早く……。
 はっ!!
 朝早く起きたら、僕の日課である「朝のスーパー脚力強化メニューA・学校まで遅刻寸前全力疾走」ができな
いっ!!
 いかん。それだけはいっか〜〜〜〜〜ん!!!!!
 ふっ……つい我を忘れてしまった。
 まぁ、気にせずに頑張って悪事に励もう!!
 もうゴミ袋は10袋目に突入だっ!!

© Kiyama Syuhei 木山秀平
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