Report 8 スレチガウ・すれちがう その2


 高校生が外に出て、客は雅貴一人になった。
「お待たせしました。モーニング・セットです。」
 物静かなマスターがモーニングを運んでくる。
 そして、雅貴はしばらく黙々とモーニングを食べていた。
 徹夜明けで、どうしても口数とかが少なくなるのはしょうがないかもしれない。
 その時、また喫茶店のドアが開く。
「こんにちは!!おじさん!!」
 入って来たのは、2人の女子高生……に見える。彼女たちは、そのままカウンター席に座る。
 雅貴はそれだけを見ると、またモーニングセットを食べ始めた。

 ちょうど店の前で芳子と和美は、ばったりと出会った。
「あら、やだ……。」
 思わず呟く芳子。
「よっちゃん、グッドタイミングね。」
 和美は制服姿でにこやかに答えた。
「一体どうしてこんな時間に……。」
 文句を言おうとする芳子に、和美。
「とりあえず入りましょう。あたし、もうおなかぺこぺこで……。」
「エネルギーを消費しすぎたんじゃない?」
 あきれ顔で言う芳子。和美はため息をついて、
「仕方ないじゃない。かなりふざけた奴が、とんでもないものを出して来たんだから。」
 とぼやく。それを聞きながら、芳子は喫茶店のドアを開く。
「こんにちは!!おじさん!!」
 芳子はそう叫ぶとカウンター席に座る。和美も芳子の横に座る。
「おう、芳子。どうした?ついさっき20面相くんが来てたんだが……。」
「20面相くんが!?」
 『20面相』とは、芳子の彼氏のあだ名である。

 雅貴は思わずコーヒーを噴きそうになった。
 それもそうだろう。先程から『○十面相』と言うフレーズに悩まされ続けているのにそれに似た『20面相』
だなんて聞いてしまうと……。
 だが、マスターたちの会話でその『20面相』は先程はいって来た女子高生の彼氏のあだ名であることがわか
る。
 一瞬だけ『○十面相』の情報が入ると期待したが……。
(ま、そんな訳も無いか。そうそううまく行くはずが無い。)
 雅貴は心の中でそう呟くと、ため息をついてコーヒーカップを下に置き、ゆで卵に手を伸ばした。

「それだったら、もっと早くに来とけばよかったぁ!!」
 悔しがる和美。実は彼女も『20面相』君のファンクラブである『少女探偵団』の会員……しかも名誉会員の
称号を貰っている。理由は、他ならぬ和美が学校内での『少女探偵団』活動を生徒会長の責任において容認し
ており、教員連にもそれを認めさせたからである。
 その裏には、実は彼女も『20面相』君のファンであると言う事実が隠されている。
 ……だからと言って、和美は彼に対してフライングした芳子を責めたりはしない。
 そんなことで崩れるほど、芳子と和美の友情はもろくはないのだ。
 それどころか。フライングを芳子に勧めたのは、実は和美だったりする。
 和美は芳子の性格をよく知っているし、そんな芳子のことを精一杯守ってあげたいと思っている。
 現に、芳子と『20面相』の接近で険悪になり、解散の危機まで訪れた『少女探偵団』をそこから救ったのは
他ならぬ和美なのだ。
 ……どんな手を使ったのかは知らないが。
 だからこそ、一方で芳子もそんな和美に感謝している。
 いや、二人の関係は友情というよりも、一種の『共感(シンパシー)』なのかもしれない。
 閑話休題。
「ごめんね。かっちゃん。」
 謝る芳子に和美。
「何いってんの。ただ、すれ違っただけでしょ。それに、今回はそんなことにはかまけてられない用もあるん
 だから。」
 そこで2人の前にコーヒーが出される。
 和美にはすぐにトーストも出て来た。
「そんなことって……。それじゃ、聞くけど……。一体、どんな用があるって言うの?」
 言う芳子。和美は答える。
「来週の月曜日に、地域の美化活動あるでしょ。ほら。」
「あ、ゴミ拾い?みんなにこにこして表面繕ってるけど、結構不評よね。やりたい人だけやれば不評も出ないで
 しょうけど、全校一斉だし……。」
 そこでレジスターの音が聞こえて来た。
 どうやら、さっきまでボックス席にいた少年が席を立って勘定を済ませたらしい。
「ありがとうございましたーーーーーー!!!」
 芳子は一旦叫んで、そして続きを言うように
「で?そのゴミ拾いがどうかしたの?」
 と、促す。

 勘定を済ませた雅貴は、店の外で一度大きく伸びをする。
「……よし!!」
 雅貴は叫ぶと、再び警察署の方へ歩き出す。
 新たなる情報が来てるかもしれない。
 だが………もしかしたらずっとそこにいた方が雅貴の知りたい情報を得ることができたかもしれない。

「あのイベントを潰すって息巻いてる馬鹿がいるらしいのよ。」
 その和美の言葉に、芳子は目を丸くして尋ねる。
「潰すって……あのイベントは全校あげてのイベントでしょ!?どうやるのよ!!」
「さあ。それは解らないけど……。でもね、そう言う予告が校長あてに来てるの。」
 芳子はそれを聞き、首をかしげて考え出す。
「それが本気だとしても……どうやってイベントを潰すつもりなのかしら。やっぱり、そこよね。」
 芳子の言葉に頷く和美。
「何をやらかすにしても、あたしが生徒会長でいるうちは絶対に生徒会のイベントに手出しさせない!!誰にケ
 ンカを売ったか……しっかりと解らせてやる!!」
 叫んで息巻く和美。そこに芳子が再び尋ねる。
「対策としては?」
「いくつかあるわ。よっちゃん、考えられる限りの例を出してみて。」
「そうね……『自殺する』って手紙を出すとか。」
「その時は、強行するまでよ。自殺なんて、したけりゃ勝手にすりゃいいんだし。第一、自分の命が盾になる
 ほどのものと思ってる自信過剰な奴に付き合ってられないわ。自分で自分を殺せるかなんて、そんなの本人
 の責任にしかならないんだから。」
「………時々あなたが恐く見えちゃう。」
「いいから。次は?」
「他には……『爆弾を仕掛けた』とか。」
「その時は、事情を全校に話してイベント自体を『延期』させてしまえばいいことよ。それは潰すことにはな
 らないでしょう?」
「あとは『全校ボイコット』とか。」
「あたしがそれを許すと思う?」
 微笑を浮かべて言う和美。だが、目は笑っていない。
「……思わない……。」
 そうだ。和美がそれをさせるわけが無い。生徒会だけでも全員招集かけてイベントを強行するだろう。
「と、言うわけ。イベントの中止は、まずありえない。でも、万が一ということがあるから……よっちゃん、
 少女探偵団から何人か今日暇そうな人を集めてくれない?」
「どうするの?かっちゃん。」
「イベントの現場を張るのよ。余計なことができないようにね。それから後……。」
 そこまで言うと、和美は自分のPHSを取り出す。
「藍にも手伝ってもらいましょう。こうした脅迫系は彼女の受け持ちだから。」
「美作さん?どうして彼女が??」
 疑問の声を発する芳子に、和美は一言。
「ふ・ふ・ふ……それは、ひ・み・つ。」
 どこぞのアニメキャラの如くに人差し指を口の前に立て、ふりふりさせるのだった。

© Kiyama Syuhei 木山秀平
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