Report 7 スレチガウ・すれちがう その1


 午前7時。
 乙女チックな部屋の中で一人の少女が目を覚ます。
「ふあああああああああ…………」
 大きく伸びをして、あくび。
 寝床から起き上がると、彼女は部屋の窓のカーテンを、シャッと開ける。
 冬の軟らかな日差しが差し込む。
「今日もいい天気……。」
 にこやかに笑う少女。
 その時。階下から電話のベルが鳴った。
 慌てて下に降りる少女。
 受話器を取り、言う。
「はい、もしもし。小林です。」
 小林。少女の名前だ。
 フルネームは、小林芳子。
 とある少年の学内ファンクラブである『少女探偵団』を主催している。
 そして芳子こそ、その少年の彼女なのだ。
 芳子の取った電話から、相手の声が聞こえてくる。
「よっちゃん!?」
 芳子をそう呼ぶ人間は、限られている。すぐに彼女には電話の相手が分かった。
「かっちゃん!!」
 そう。幼なじみで、芳子の通う学校の生徒会長。
 深山和美である。
「どうしたのよ、かっちゃん!!こんな朝早くに!」
 文句を言う芳子に、和美。
「残念だけど、説明してる暇はないのよ。急いでこっちに来てくれない!?」
「ちょ、ちょっと待ってよ。こっちって……どこ?」
 和美は説明するのももどかしいという風に声を荒げて言う。
「学校!!」
「学校!?」
 九官鳥のように同じ言葉を言って、聞き返す芳子。
 そんな彼女にお構い無しに和美。
「だから早く来てよ!!」
「ちょっと待ってよ!!そんな、いきなり……!!」
「それじゃ、例の喫茶店でもいいから!!そこで待ってるわ!!」
 そこで電話が切れる。
「た、大変!!」
 芳子は慌てて自分の部屋に駆け込んでいきなりでかける準備をする。
 和美は実は怒らせると恐いのだ。
 普段はすごく温厚だが、非常事態になるとニトロがかかるかのごとく活発になる。
 そして、そんな時の彼女は手がつけられない。
 それを子どもの頃からの付き合いでよく解っているから、芳子。
 慌てて準備をして脱兎の如く玄関から外へと飛び出した。

 僕はコーヒーをすすった。
 相変わらず美味しいコーヒーだと思う。
 僕がこの喫茶店に来るのは、このコーヒーが美味しいから。
 そして、パンをかじる。
 そんな僕の様子を、カウンターからマスターがにこにこしてみている。
「どうだい?」
 尋ねるマスターに僕は答える。
「いいですよ。美味しいじゃないですか。」
 今、僕が食べているもの。
 それは、この喫茶店『探偵事務所』のモーニング・サービス・セットだ。
 コーヒーに、サラダとバタートースト、あとゆで卵がついてくる。
 また、このバタートーストとゆで卵。頼めばハムエッグトーストになる。
 今、僕はゴミ拾いを中断してここに朝食をとりに来ている。
 ペースは上々。予定よりも早い。
 実際、すばらしい出来だ。
 このままならば……きっと今日中に拾い終えることが出来る。
 ちょいと辛いかもしれないけどね。

 雅貴は街を歩きながら考え事をしていた。
 実際、○十面相に関しての情報はまったく手に入っていない。
 ただ、1つだけ惹かれる事件があった。
 とある『匿名希望』が、お寺の『除夜の鐘』を和尚の代わりについたと言う事件。
 ただ、聞いた話によると毎年の除夜の鐘よりも明瞭じゃなかったらしい。
 音はよく通る力強いものだが、かすれるような音……。
 それを聞いた時、雅貴の頭脳はすぐに答えを打ち出した。
(テープを使いやがったな。横着しやがって。)
 それを聞き、考えた時。思わず苦笑してしまった。
 情報を待っている間に、藍はぐっすりと眠ってしまっていた。
 そこで雅貴は、一人で街を歩いてゆっくり考えることにしたのだ。
(あのお寺の一件……。間違いない。あんな人をくったような『軽犯罪』こそが○十面相のお家芸なんだ。)
 そこで雅貴はまたまたため息をつく。
(なんとな〜〜〜くなぁ……。)
 なんとなく。そう、なんとなく力が入りづらい。
 追えば追うほど、彼に一泡ふかされているような気がする。
 一杯くわされているような気がする。
 彼を捕まえる必要性は……無い。
 そんな気さえしてくる。
 だが。
(今更、後には引けないよな……。)
 その時、雅貴の腹の虫が鳴いた。
「ははは……」
 雅貴は力無く笑うと、周囲を見回す。
 一件の喫茶店が目に入った。
 なんとなくネーミングが気に入った。
 そして『営業中』の札と『モーニングあります』の文字。
 雅貴は迷わず、その喫茶店に入った。
 そこは、喫茶『探偵事務所』。

 一人の少年が入って来た。珍しい。
 この喫茶店は、いわゆる『通の店』だ。本当に知る人にしかこの喫茶店に来る事はないのに。
 少年は、店の中を見回す。やはり、一見の客だ。
 僕は、再び少年から食べかけのモーニングに顔を向ける。
 なにしろ、作業は長い。
 そのためにも、しっかりと栄養を摂っておきたいんだ。

 雅貴は店の中を見回す。
 なかなかな雰囲気だ。面白い。
 高校生くらいの少年が、モーニングセットを食べている。
 雅貴は高校生とは別のボックス席に座る。
 マスターが注文を取りに来る。
「ご注文は?」
「モーニングセット、お願いします。コーヒーで。」
「トーストは、ノーマルとハムエッグのどちらがよろしいでしょうか?」
「ノーマルで。」
「はい。少々お待ち下さい。」
 そして、マスターはカウンターに引っ込む。

 静かだ……。
 今までも静かだったけど、あの少年が来てから更に静かになったような気がするのは気のせいだろうか。
 まるで嵐の前みたい……と言うのは、言い過ぎか!?
 まぁ、この喫茶店の静けさは今に始まったことじゃないけど。
 でも、まぁ。僕はモーニングを食べ終えて会計を終わらせる。
 マスターが金額を言って、僕はにこやかにお金を払う。
「また来ますよ。」
 僕はそう言って、喫茶『探偵事務所』の外に出た。
 さて!!まだまだ作業は序の口だ!!

© Kiyama Syuhei 木山秀平
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