Report 5 探せない場所


「…………そう緊張しないでくれる?」
 これで何回目だろう。彼女にそう忠告するのは。
 そして、彼女は何回も同じ小さな返事を雅貴に返す。
「は、はい……。」
 雅貴たちは今、警察署の会議室にいる。
 雅貴は彼女---藍の反応に小さなため息をついた。
 その様子を見て、藍。
「す、すいません……。だって、アスカ3rdと言えばSEPの中のSEPですから、つい緊張してしまって……。」
 その言葉を聞いて、雅貴は心の中でぼやく。
(俺はいつのまにそんなに有名になったんだ!?)
 その心の声に答えるかのように、藍は続ける。
「SEPの活躍は前例データ化されて閲覧できますし、特にあなたの活躍は刑事局長の語り草でして……。」
 それを聞いて、雅貴。思いっきり苦笑して呟いた。
「あの人は……!!」
 雅貴の目の前に浮かぶ、聖華市などでの彼の活躍を自慢そうに語る刑事局長。
 そして「SEPたるものこうあるべき」なんてやっているかもしれない彼の満足げな顔。
 深く考えずとも、容易に想像できる。
 さらに「SEPも警察もすべて世間の秩序のために協力し合うべし」とかやってる局長の様子も。
 雅貴は、今度は誰にも解るよう、大袈裟にため息をつく。
「俺はそんなに大仰な奴じゃ……。とにかく気を抜いて下さいよ。あなたよりも年下の中学生なんですし。」
 雅貴の再三の言葉に藍の力は少しは抜けたようだが、それでも緊張は解けてない。
 雅貴はまたまた、ため息をついた。

 僕は既にアジトに帰っていた。物置改造のアジトは、とてもぐあいがいい。
 犯罪計画をやる時は必ずここにこもっている。
 予告した日は明日だ。
 急いで計画を立てねばならない。
 現場のリサーチは、既に済ませている。
 だが、どうすべきか。
 どうやって、あの膨大な量のゴミを始末して、学校のイベントを盗みきるか。
 困った。
 人海戦術を使うわけには行かない。
 なにせ部下たちは(部下になる予定となる近所の健太くん以外は)今回当てにならないのだ。
 なにせ、部下1と部下2は猫だから。
 ああっ!!
 猫の手も借りたいのに!!肝心の猫の手は使えないんだっ!!
 う〜〜〜ん。
 ……とりあえずは健太くんの家に言ってみよう。

 ……………。
 健太くんったら、どうも明日はももちゃんとデートらしい……。
 最近の園児は進んでるなぁ……。
 僕も計画を止めて芳子ちゃんとデート……。
 はっ!!!
 いかんっ!!!
 今回の悪事は、待ってる人がいるんだった!!
 向こうも知恵を絞って僕を捕まえようとしてるに違いないんだ!!
 だからこっちも頑張って悪事を成功させなくてはっ!!
 じゃないと、探偵志望の鳳飛さんに失礼と言うものだよ!!
 あ〜〜〜〜〜。
 でも、どうしたものかなぁ。
 しかし……これはきっと他人を巻き込むなと言う大いなる意志が働いたんだな。
 うん。そうだ。
 やはり、自分の力でやり遂げないと『怪人○十面相』じゃないかも。
 しかも今回はチャレンジャーがいるわけで、下手に巻き込むと僕の正体が周囲にばれる!!
 やはり、正体は急速じゃなくてじわじわと認知されないと!!
 第一、正体は謎なのが怪人の美学!!
 ……だろう。たぶん。
 だから、この仕事はたった一人で……。
 どうやって……。
 やっぱり『ぢみち』な作業になるなぁ。きっと。
 今夜からはじめよう。
 今夜0時にこっそりと家を抜け出そう。
 ……いや、やっぱりそれはまずいな。
 深夜補導は実はこの時代結構強化されてるから。
 よし。午前5時だ。午前4時半に起きて、午前5時からゴミ拾いだ。
 絶対に地域清掃活動の学校イベントを盗み出してやる!!
 怪人○十面相の名にかけてっ!!
 かっこいいかもしれないけど……照れるなぁ。それでも、いまいちしまらないかも。
 20面相が身内にいればさぁ。
 例えば祖父とかだったら『じっちゃんの名にかけて!!』って出来るんだけど。
 まぁ、無いものねだりしたってしょうがないのかもしれない。
 ……前にも同じような事言ったっけかなぁ。

「……それじゃ、彼の言う『この街で最も醜いもの』に心当たりは無いのかい!?」
「は、はい……。」
 藍の返事に、雅貴は頭を抱えた。
(普遍的に「醜いもの」が無い……。やばい。第一『醜いもの』と言ったって、個人的価値観を考えればなん
 でも怪しく見えちまう……。○十面相にとっての『醜いもの』って何だ……何なんだよ……。)
 イライラしてくる。
 考えれば考えるほど解らなくなっていく。
 思考のループをぐるぐると回って、それで1つも見えるものが無い。
 光が見えない。
(ちくしょう、データが足りない……足りない……。)
「くそっ!!!!」
 バシンと机を叩く。藍の身体がびくりと震える。
 その時。
 雅貴の手の痛みと共に、何かが閃いた。
 そのまま呆然とした顔で、呟く。
「データが……足りない……。」
 そう。データが足りない。
 時間も無い。
 だが、他に手はない。
 足りないデータは……。
「集めればいい……。」
 少なくとも、○十面相は大袈裟なことはしない。
 これまでにその名前が伝わらないことやE.D.O.の一件を見ても解る。
 ならば……。
(彼の本拠であるこの街で、彼が何もやっていないはずが無い……。)
 そう。
 雅貴は呆然としたままで。
 不意に笑った。
 大笑いした。
「そうか……そうか!!あははははははははははは!!!!!!!」
 藍は、そんな雅貴をただ不思議そうに。
 まるで無気味な何かに対峙しているように彼を見つめていた。

© Kiyama Syuhei 木山秀平
© 立川 恵/講談社/ABC/電通/TMS
(asuka name copyright from「怪盗 セイント・テール」)
禁・無断転載