Report 4 挑戦状の意味は


 手紙をひらひらさせながら、雅貴はさらに言う。
「この挑戦状の文面。丁寧な言葉を使い、相手を挑発してるとすれば、たいしたもんだね。」
「そうじゃないんですか?」
 慎太郎の質問に、雅貴。
「残念ながら、違いますよ。」
「どうしてです?そう見せて暗号とかが隠されているとか?」
 雅貴はその慎太郎の意見にさらに苦笑して言う。
「もっと的外れです。それはね。もしそうなら、もっと文章が丁寧かつ長く作為的でいいはず。この文章には
 それがありません。これで暗号が隠されているなら……よっぽどうまい奴ですね。」
「それでは、この文章には?」
「何も隠されていない。手がかりはあるかもしれないが、それは彼の住む町じゃない。さて、それを踏まえた
 上で?」
「上で?」
 問い掛ける雅貴の声を反復する慎太郎。さらに雅貴はにこりと笑って一気に言う。
「彼はなぜこうした何も手がかりのなさそうな予告状をよこしたか。彼は自分を『怪人志望の高校生』と言っ
 た。そして俺は『探偵志望の中学生』だ。向こうは高校生、こっちは中学生。相手は多分俺を甘く見てる。
 そこに付け込む隙があるとするならば……。」
「どういう事ですか!?」
 他ならぬ雅貴の言葉を遮って尋ねる慎太郎。雅貴は更に言葉を続ける。
「彼は僕を甘く見ているからこそ、あえて暗号は使わなかったんだと思う。それとも、彼が性格的に単純すぎ
 るのかもしれない。彼を相手に深読みすることは無いと思う。そうしたら相手の思うつぼになるよ。きっと
 ね。E.D.O.と呼ばれる特殊機関で起こった事件のケースを見てみる限り、無意識か意識的かは知らないけど
 彼は思わせぶりなことをしてあえて自分の狙いから目をそらさせている。そうすることが得意なんだ。それ
 なら……。」
「それなら?」
「単純に考えてしまえばいいんですよ。つまり、消印の街。ここに来れば、全ての答えは自ずと見える。」

 僕は紙袋を持ち、ヲタクの標準的格好と言う奴で外に出た。
 体には座布団を巻き付けて、太ったように見せている。
 玄関から母のママチャリを持ち出して乗る。僕の自転車は使えない。
 だって、ばれちゃうもん。
 そして、叫ぶ。
「おう、世話になったな!!」
 声色はあえて太いものに変えた。含み綿もしているし、これでばれてはいないはず。
 ……ばれたかな?
 僕は恐る恐る少女探偵団らしき彼女の方を振り返る。
 気付いてない。あいもかわらず僕の部屋を凝視している。
 ほっ……。
 そして、僕はまんまと外に出たのだ。そして、ママチャリを駅前へと走らせる。
 駅前の道は途中で線路にぶつかり、実はそれはそこから車道と平行しているのだ。
 うわぁ……。
 僕は思わず眉をひそめた。
 なんて量だ。
 この空缶の数!!数百個は軽く超える。気が遠くなりそうだ。
 学校行事から地域清掃活動を盗む……無謀すぎたかな?
 いやいや。僕は首を左右に振る。
 これほどの大仕事、怪人○十面相にこそふさわしい。
 だが。ともかく暑い。
 当たり前かもしれない。座布団にジャンパー。
 今の時期は12月。寒いとはいえ、厚着しすぎたかもしれない。
 ハンカチで汗を拭う。
 その時。長く続く駅への道。
 僕の前から、パトカーが接近してくる。

「ひどいなぁ……。」
 パトカーの窓から外を見て、雅貴は呟く。
「何がです?」
 慎太郎の問いに、雅貴は無言で窓の外の車道に平行に走っている線路を指差す。
「あれ。あの空缶とかのゴミ。」
「あぁ……確かにひどいですね。」
「なに考えてんだか……。最低だなぁ。」
 そんなことを言いあいながらも、パトカーは道を走っていく。

 僕とパトカーがすれ違った。
 なんとなく、どきどきするよね。

 パトカーが白い服を着た少々小太りの少年とすれ違った。
 汗を拭ってたりする。
 それが、どうとしたわけではない。
 だが。
 雅貴はその少年が少しだけ気にかかった。
 思わず、彼を目で追う。
 少年は、じっと線路を凝視している。
 やがてパトカーはその場から遠ざかっていく。
(何だ?今の違和感は……。)
 心の中で呟く雅貴。
「どうしました?アスカ3rd。」
 いきなり無言になった雅貴に尋ねる慎太郎。
 雅貴はハッとして慎太郎に言う。
「あ、いや。何でもない……ですよ……。」
「しっかりして下さいよ、アスカ3rd。あともう少しで向こうの署に着きますよ?」
「あ、うん……。」
 一応、事情は高宮警視から大沢局長を通じて向こうに伝わっている。
 だから、向こうの署に着けば、向こうでの担当SEPが待っている……はずだ。
 パトカーが走る。
 しばらくして、この街の警察署の前にパトカーが停まる。
 雅貴と慎太郎はパトカーから下りてから、戸口にいる警官に敬礼して警察署の中に入る。
 そして、慎太郎。受け付けの婦警に、
「聖華の本部から来ました。話は通してありますが……。」
 と、礼儀正しくお辞儀して言う。
 受け付けの婦警は笑みを浮かべて言う。
「聞いています。」
 そして婦警はインターフォンの受話器を取り、内線ボタンを押して言う。
「県警の松平警部補がおいでです。」
 そして二言三言インターフォンを介して言葉を交わした後に、婦警は受話器を置いて慎太郎に。
「少々お待ち下さい。うちの2課長、すぐ来ますので。」
 その間に、雅貴は自分のSEPカードを取り出して、バッチオプション(安全ピンのついたカードケース。警察
内部において、自らの身分を常に表示する必要がある時に使用する。)を使い、IDカードよろしく自分の左胸
に取り付ける。
 しばらくして、この署の2課長が横に一人の少女を連れ立ってやってくる。
 その2課長、ぱりっとした制服を着た長身でダンディーなロマンスグレーの中年である。
 少女の方はブレザー服を着ており、その胸には雅貴と同じようにSEPのIDカードがついている。
 ダンディーな2課長は、雅貴と慎太郎の前に来て手を伸ばす。
「ようこそ。アスカ捜査官3代目、飛鳥雅貴くん。当署に来て下さるとは、光栄の至りだよ。」
 雅貴は慎太郎の前に出て2課長の手を握り、にこやかに答える。
「ありがとうございます。でも、そう言っていただけると、逆になんか照れくさいですね。第一、私はただの
 学生ですし……。」
「何を言うんだ。『爆弾魔』や『備前の殺人』の一件の活躍は聞き及んでいるよ。その手腕、ぜひこの娘にも
 教授してやって欲しい。」
 ロマンスグレーの2課長は、そう言って横にいる少女の背を押す。
 グリーンのSEPカードを持つ少女は、不意に背中を押されて前につんのめる。そして、慌てたように叫ぶ。
「はっ!!はじめまして!!!わたし……その、わたし、この街でSEPの役を仰せつかっています、美作藍(みまさ
 か らん)と申しますっ!!あの、その……アスカ3rdのご活躍はいつも聞き及んでいて、私たちSEPにとって
 も……」
 そこで藍は、顔を真っ赤にしてうつむく。
 雅貴はそこで改めて藍をじっと見つめる。
 少しウェーブのかかったボブショートの髪。そばかすの残る目元。
 顔は……まあ、可愛い部類には入るかもしれない。
 しかし、雅貴はそう言ったことをまったく意識せずににこりと笑って言った。
「僕は、あまりこの街のことは知らないんです。それにここの担当SEPはあなたですし。ま、よろしくお願い
 しますね。」
 その言葉を聞いて、藍。顔を上げて元気良く答えた。
「はいっ!!!」

© Kiyama Syuhei 木山秀平
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