Report 3 アスカ3rd、彼の街へ飛ぶ
翌月、第1土曜日。
雅貴はパトカーの中で参考書を開いていた。
だが、参考書の中身はなかなか頭に入らない。
「どう考えたって、職権乱用のような気がする……。」
呟く雅貴にパトカーを運転している松平慎太郎が答える。
「気にする必要は無いっスよ。アスカ3rd。この車、公用による持ち出しとして今日と明日の分登録されてま
すからね。」
「でもなぁ……。」
あれから雅貴並みに怪人○十面相について調べてはみた。
だが、結論として警察内には該当資料は無し。
別口で調べてみた資料に、やっとその名前を見つけることが出来た。
その資料の出所は『E.D.O.』と呼ばれる特殊な組織……らしい。
そこの記念写真用ロゴにいたずらされた……と言うのが被害内容。
なんでも『EDO』が『FDO』に変わってしまっていたと言うもの。
雅貴は手にしたシャーペンのノッカーで自分の頭を書きながら呟く。
「軽犯罪じゃあなぁ……。」
力が入らない、とは言わない。
だが、とっつかまえて……となると、そこまでしていいものかどうか悩む。
「ま、とっつかまえて……それから後のことはその時だなぁ。」
そう呟く雅貴に、慎太郎。
「大丈夫ですか?アスカ3rd。」
そんな彼に雅貴は笑いながら言う。
「いやぁ、どうしたもんかね。○十面相って。」
だが慎太郎、雅貴の答えにこう答えた。
「そうじゃなくて。さ来週が試験でしょう?県立のコース別の。確か進学系を……。」
その言葉に雅貴。自分が置かれている現実に引き戻される。
そうなのだ。
雅貴は確かにSEPの捜査官で、その特権と義務で○十面相に対しての捜査権を手に入れているが、一方で彼
は極々普通の学生である。
しかも、受験生と言うたちの悪い身分。
雅貴のSEPとしての身分を慎太郎は知らない。
ゆえに彼は、雅貴が事件に絡むのは『趣味』のためと思い込んでいる。
そのために慎太郎は雅貴の進学についても(他人と言うレベルではあるが)心配している。
そんな彼に雅貴。
「だ、大丈夫、大丈夫。」
少しどもるが、何とか答える。
……SEPそのものの業務と進学とは無関係ではないが、それでもまさかSEPだから進学を優遇してくれるなん
てことは、絶対にありえない。
だからこそ、雅貴も必死で勉強しているのだが……。
雅貴は一瞬苦笑する。
こんな時期にも関わらず、自分が軽犯罪でも事件に関わろうとしているのは……。
(もしかしたら、現実逃避なのかもしれない。)
そう、心の中に思い浮かべて。それを慌てて打ち消そうとする。
だが、否定できない。
そして、雅貴は再び心の中で呟いた。
「まぁ……しょうがないか……。」
これが、いい気分転換になればいい。
雅貴は心底そう思って、そんな自分に気付き、自嘲気味に心の中で呟いた。
(ヤな気分転換だな……。)
いよいよ、明日が予告の日だ。
僕は作戦基地で美化活動の範囲を地図に張り出した。
そして、僕のクラスが受け持つ範囲を赤ペンでぐるりと囲む。
別のクラスの範囲も、他の色のペンで囲んでいく。
……広い。
とてつもなく広い。
……やっぱ、やめようかな……。
そんな思いが、僕を支配していく。
だが、やはりそれは出来ない。
なぜなら。
僕が『怪人○十面相』だからだ。
読み方は『まるじゅうめんそう』ではない。
これで『ん・じゅうめんそう』だ。
自称『かいじん ん・じゅうめんそう』だ。
個人的には気に入っている。
そして、僕は地図をじっと見て熟考する。
どこからはじめればいいだろう。
しかし、こういうのは下見をせねばならない。
そうだ。
下見だ。
やはり、これを丹念に行っているかどうかが重要なファクターとなる。
しかし、犯行の下見を行っていることを『少女探偵団』のみんなに知られるわけには行かない。
彼女たちは探偵組織ではないが、この僕『○十面相』の行動を逐一把握せねばならないらしい。
よし。
こうなったら変装しかないだろう。
僕は作戦基地の本棚から一冊の本を取り出す。
その本のタイトルには、こう書いてあった。
『簡単な変装』
なかなかの名著だ。
実はこのために、お小遣いも溜めて男性用化粧品も一応買っている。
最近の男性用化粧品のバリエーションには驚嘆すると思った。
なにせ、ファンデーションまである。正直、ぶっ飛んだ。
僕は簡単に化粧して頬にそばかすを入れる。含み綿を口に入れて輪郭を変える。
そして真っ白のTシャツに同色のチノパンツを着る。
普段の自分なら絶対にこんな目立たない格好はしないだろう。
一応僕も年頃の少年だから、普段は流行りの格好で決めてるんだが。
でも、そんな格好では間違いなくばれるだろう。
と、言うわけで。
今回はスタンダートで目立たなそうな格好で行く。
パトカーの中で雅貴は参考書を閉じた。
ゆっくりと考えを巡らす。
「何だろうな。彼が住む町で最も醜いもの……。」
そう呟く雅貴に、慎太郎が答える。
「本当にこの町に住んでいるんでしょうか。その怪人が。」
雅貴は肩を竦めて言う。
「わかんないよ。」
「わかんないって、そんな無責任な……アスカ3rd!!」
「俺だって、ただの中学生なんだからねぇ。そう買いかぶられても困るよ。」
苦笑しながら言う雅貴に、慎太郎。
「それでも、あなたはアスカの3代目でしょう!!」
その言葉に雅貴。にこやかに答えた。
「まぁ、順序立てて考えようじゃないか。まず、この自称『怪人』は僕に挑戦して来た。挑戦なら、手がかり
をあえて残してると思わないか?」
「そ、そりゃあ確かに……。」
雅貴の指摘に、慎太郎は頷く。
そして雅貴は。
内ポケットにその手を伸ばし、怪人○十面相からやって来た手紙の封筒を取り出した。
© Kiyama Syuhei 木山秀平
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