Report 2 挑戦状


 雅貴のハンドルネームは『鳳飛(フォウフェイ)』と言う。
 もっとも、知り会いの所では『飛鳥雅貴』と、本名を使っているが。
 岡山のセンセやその関係は、ほとんどを本名で通している。
 そして、雅貴。
 今回は『鳳飛』あてに来たメールを見て-----絶句していた。
「本気かよ、こいつ……。」
 それもそうだろう。
 怪人志望だと言う人間にメールしたら『予告状を送る』とリメールして来たのだ。
 雅貴はため息をついて叫んだ。
「そっちがそのつもりなら……やってやろうじゃんか!!」
 雅貴は、単純にも彼の挑戦に乗ってしまった。
 ……その単純さは確かに雅貴らしいと言えばそうだが。

 メールがやって来た。
 向こうもその気らしい。
 なら、僕もそれに応えねばならないだろう。
 礼には礼を持って返す。
 それがルールだ。
 ……なんか、僕って雰囲気出してるよなぁ。
 まるでホントの怪人みたい。
 あ、怪人志望だっけ。僕。
 なんとなくわくわくしちゃうよな。
 ま、どうせ相手は中学生。
 やれることなんてたかが知れてるだろうと思う。
 でも……手加減は無しだね。

 僕は少し考えてみた。
 僕自信の都合もあるから、この街以外での活動は出来ない。
 一方で彼はこの街の人間ではないらしい。
 それを範疇に入れた上で、犯行は土日あたりが適当ではないだろうか。
 来月最初の月曜日。
 その日には、みんなも嫌がる『学校域清掃美化活動』がある。
 要するに、ゴミ拾いだ。
 うちの学校には電車通いの生徒もいるが、そいつらが電車から線路などにゴミをぽい捨てすることがある。
 ……エコロジー全盛のこの時代にとんでもない事をする奴だが、こうした学生の身勝手は今に始まったこと
ではなく、昔からのもののようだ。
 で、うちの学校では年に1回そのゴミを始末するイベントが行われる。
 確かに『美化活動ボランティア』と言えば聞こえはいいけど、要は不良学生が出したゴミの後始末だ。
 やだなぁ。
 みんな冗談じゃないって言ってるし。
 よし、決めた。
 こいつを盗んでやろう。
 さて、問題は。
 どうやってこの学校のイベントを盗むかだ。
 ……やっぱ、オーソドックスな手を使うのがいいかな。

 数日後、雅貴はポストに封筒が入っているのに気付いた。
 裏を見てみる。
 そこには、こう記されていた。

    『To Dear Detective Boy [鳳飛] From 怪人○十面相』

 雅貴は、家の中に入ると封書を開けて中の手紙を取り出す。

  『 予告状 』

     親愛なる探偵志望の中学生、鳳飛さん。
     日々を気楽にお過ごしでしょうか?
     さて、私は来月の第1日曜日。
     僕は自分の住む町にて、私がこの街で最も
     醜いと感じるものをいただきに参上いたし
     ます。それが何かは、その時に判るでしょう。
     探偵ならば、それくらい前もって解りますよね?

     警戒には、十分ご注意のほどを。

                 怪人 ○十面相


「怪人○十面相……。」
 雅貴はポツリと呟いていた。
 そして、彼にメールしてから何回目になるであろうか、この言葉を呟いていた。
「本気だな。やっぱ、こいつ。」
 彼に関わったことを死ぬほど後悔する雅貴。
 だが、賽は投げられている。もう止まれない。
 しかもこの予告状、妙に丁寧言葉だ。
 まるっきり往年の『怪人』ではないか。
「こーゆーのは、どこぞの江戸川乱歩の小説の中にでも出てりゃいいのに……。」
 ぼやく雅貴。
 だが、ぼやいてみた所で目の前の現実が無くなるわけでもない。
 それに、一方。
 こうしたシュチュエーションを喜んでいる自分も確かにいる。
 悩んでもしょうがない。
 雅貴はそこまで考えるとふとその顔に笑みを浮かべる。
「しょーがねぇ……拝んでやろうじゃねえか。」
 そこで言葉を切り。そして言葉を紡ぐ。
「こんな、時代錯誤丸出しの『怪人』的なことをやらかす高校生とやらのツラをな……。」
 雅貴はそこで部屋のカレンダーを見る。
「来月の第1日曜……。」
 封書の消印を見る。
 とりあえず、手がかりはそれしか無い。
 その街に行くには……。
「俺の金で足りるかなぁ??」
 公共交通機関を使うか、それとも……。

© Kiyama Syuhei 木山秀平
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