Report 7 第5楽章:凶狂暴走・メタルハート!


 芽美は、冷たい棺の中で眠っていた。
 それは王子を待つ、眠り姫のように-------。
 その棺のある部屋のドアが、不意に開く。
 入ってきたのは、芽美のコピー。
 コピーは、ベッドが変化してできた冷凍カプセルをじっと見つめる。
 いや、正確には冷凍カプセルの中の芽美を。
 コピーに移されている記憶は14歳まで。それから後の事はコピーは知らない。
 だから、コピーは知りたかった。自分が、つまりは自分のオリジナルがどのような生き方をしてきた
かを。
 だが、同時に恐かった。自分が否定されそうな気がして。
 コピーは、身を翻して自分が入ってきたドアからまた外に出る。

「博士…………。」
 コピーは、桂一の研究室に戻る。
 桂一は、コピーに振り返り言う。
「いままで、どこにいた。」
 コピーは、その質問に口を開こうとする。
「あたしは、博士のプログラムの通りに………。」
「黙れ!お前はまだ動ける状態ではない!」
 コピーの言葉をぴしゃりと遮る桂一。そして続ける。
「お前は、今はただ私の言う通りに動けばいい。」
「それは困りますな。」
 不意に聞こえた声。ライムだ。コピーの後ろにライムがいる。
「博士。我々の組織は、あなたの芸術と最高の怪盗の力が合体したこの人形がほしいのですからね。」
 ライムの腕には銃が握られている。
「なんのつもりだ。」
 桂一の呟き。ライムは、平然と答える。
「簡単な話です。あなたの研究のデータはすでに我々の手元にある。オリジナルさえいれば、我々に都
 合のいいセイント・テールを量産する事などたやすい。あなたはもう、用済みです。」
 桂一は、歯ぎしりする。ていよく利用された事が分かったからだ。そして叫ぶ。
「コピーロボット!その男を取り押さえろ!」
 だが、コピーは動こうとしない。ライムはため息を吐いて答えた。
「実は昨日、コピーロボットが少々損傷を受けましてね。私たちで直しておきました。」
 桂一の顔から血の気が引く。ライムが何を言っているかが分かったのだ。
 そして、ライムは続ける。
「もちろん、その際にあなたのプログラムを解除し私たちのプログラムを入れましたよ。やれ。」
 最後の言葉は、コピーに向けられたものだった。コピーがゆっくりと桂一に近づく。
「ごめんなさい。博士。いくら人間の思考をコピーしても、人形は人間になれません。」
 コピーは、桂一の首に手をかける。
「どうして………あたしを目覚めさせたんですか………芽美の中で……ゆっくりと眠っていたかったの
 に………今度こそ……邪悪な道に染まってしまう………。」
 結局、桂一がコピーしてしまったものは、セイント・テールでなくとも怪盗なら誰でも持つ『泥棒とし
ての本質』だった。
 他人の物を盗み、そして慌てふためく姿を見て面白がる邪悪な心。
 良くない事でもあえてそれをなそうとする心。
 それは、他人のためでも自分のためでも源流は同じ。
 そして------桂一の首の骨が折れる音が研究室に響いた。

「プロフェッサー。博士は始末しました。コピーは見事に我々の命令を聞いています。」
 受話器から聞こえる声。プロフェッサーは、満足そうに笑うと言う。
「エクストラ薬品からのデータも手に入った。見事に便利なものだな。」
 そして、プロフェッサーは続ける。
「これから、もっとすばらしいショーを見る事ができる。そう。Now it's Show Time!幕が今上がるの
 だ。」

 聖華市内の某企業。
 警報装置が鳴り響く。
 闇の中に翻る2つのポニーテール。
 それを、たまたま通りかかった佐渡が撮影する。
 佐渡は呟いた。
「スクープだ………。」

「やられたっ!」
 病院の床に新聞を叩き付ける雅貴。
「だけど………これで躊躇する必要は無くなった。もう、あれはセイント・テールでもコピーでもない。
 もしそうなら、必ず俺に予告を出す。それが無いんだから。」
 落ち着いた声で言う大貴。そして続ける。
「許さねぇ。セイント・テールの名誉を汚そうなんて………。」
 静かな口調だけに、その怒りはありありと出ている。雅貴はそれを見ながら、ノートパソコンを取り
出す。
 そして、事件の起こりそうな場所と、時間を割り出そうとする。
「性質は違っても、考え方はセイント・テールなんだ。大丈夫。割り出せる。」
 そして、もう一つ事項を追加する。
「今まで、コピーは大企業のデータを狙っている。次に狙われるのは……。」
 パソコン内のカリキュレーターが、一つの結果を出した。
「大通りに本社を持つ、ミツルギコーポレーションだ!」
 その時、大貴の机の上にある携帯電話がなる。大貴の携帯は、医療機器に異常を起こさない特殊仕様
電波を使用しているので、病院もあまり文句を言わない。
 雅貴が携帯に出る。
「もしもし?」
「あ、雅貴君ね。」
 聞き覚えのあるリナの声。
「何の用ですか?」
「捜査の結果が出たわ。海岸通りの修道院の廃屋に怪しい一団が出入りしているそうよ。」
「分かりました。ありがとう。それじゃ、そのままそこを監視するよう言っといて下さい。」
「もう、そうしてるわよ。」
「それじゃ、準備を整えていきますから。」
 そして、雅貴は携帯を切る。
 そして、大貴に振り返り言う。
「親父、海岸通りの修道院の廃屋って知ってるか?」
 その言葉を聞いて、大貴。
「知ってるも何も、そこは………!」
 そう。そこは大貴にとっても思い出の場所。昔、彼はそこにとらわれの身になった事がある。
 そして、大貴がセイント・テールを捕まえた場所。
「お兄ちゃん、パパ、入るよ。」
 ドアの向こうから、恋美の声が聞こえる。と思ったら、もう恋美は病室に入っていた。
 雅貴は、恋美をじっと見て言う。
「今日ばっかりは、お前の力を借りなければならないかもしれない。」
「え?」
 聞き返す恋美。それに対して雅貴は呟く。
「恋美、お前のマジックの力は演芸会+α程度だけど、確か運動神経は母さん譲りだな。」
「え、ええ。」
 兄の剣幕に、引く妹。
「頼む、今日だけ、力を貸してくれ!」
「え?」
 そして雅貴はとうとうと語り出した。幼い日に母から聞いた昔話。そして、両親の思い出を。
 母は、恋美には自分の昔話はしなかった。もしかしたら、自分に憧れ無断で怪盗になるかもしれない
と思ったからかも知れない。
 雅貴は、父とともにそれを話す決心をしたのだ。
 作戦には、どうしても恋美が必要だったから。そして、恋美に手伝ってもらうには全てを隠し立てす
るのは不可能だから。
 長い話が終わり、恋美の顔は真剣そのものになった。
 そして、雅貴は妹に言う。
「手伝ってくれるか?」
 恋美は、ゆっくりと頷いて言う。
「まさか、ママが伝説の怪盗なんてね。自慢したい気分も……。」
 その言葉に、雅貴は慌てて言う。
「おい!それはしゃれにならんぞ!」
 恋美は、にこやかに笑っていった。
「冗談よ。だって、ママの事は家族だけの秘密、なんでしょ?」

© Kiyama Syuhei 木山秀平
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