Report 5 第4楽章:アレグロ・時を超えた使徒


 聖ポーリア学院礼拝堂。時間は午後の1時。
 一人のシスターが、祈りを捧げている。
 そこに開く扉。
「聖良おばさん……………。」
 シスター、聖良が振り向く。そこには雅貴がいた。
「何ですか?雅貴君。」
 少し不機嫌な声で言う聖良。
 雅貴は、それを無視して一枚のカードを差し出す。
 それは、先ほどのセイント・テールの予告状---------!
 それを読んだ聖良は、呟く。
「これは………本当の本物なのですか……………?」
「いや、それはどうか分からないですよ。ただ、パターンは踏んでます。」
 答える雅貴。そして続ける。
「聖良おばさんに聞けば、本物かどうか分かると思ったけど………。」
「飛鳥探偵……お父さまは、どうおっしゃっているんですか?」
「信じたくないけど、本物だって言ってるよ。ちなみに、エクストラ製薬を調べてみたけど
 珍しいほどに良心的な会社だった。」
「そうですか…………。」
 瞳に、悲しみの色を宿す聖良。
 それを見ながら雅貴。
「とりあえず、親父はまだ病院から動けない。この予告にはとりあえず俺が対応しますよ。」
 その言葉に聖良は、
「お父さまはご承知を?」
 と尋ねる。雅貴は笑いながら、
「あの親父が承知するわけ無いって。今ごろ医者の先生が、鎮静剤を打ってるから。」
 その台詞を聞き、聖良の頬に一筋の汗が伝う。
「それじゃ。」
 雅貴は、それだけ言うと礼拝堂から出て行く。
 礼拝堂、一人になった聖良。
 再び祭壇に向かい祈る。そして呟く。
「芽美ちゃん………どうして…………?どうしてこんな事を…………。」

「なんですって?セイント・テールが来る!?」
 エクストラ製薬、社長室。雅貴は、そこに話をつけに行く。
「ええ。そうです。しばらくなりを潜めていたようですが、再び活動を開始したようですね。」
 雅貴は適当に話をでっち上げる。もちろん彼はセイント・テールが自分の母親である事は知っている。
 ただ、件の予告状がそのセイント・テールかどうかは分からない。
 全てをはっきりさせるためには、捕まえる、もしくはこの目で見るしかないのだ。
「しかし、飛鳥探偵はセイント・テール専任捜査官ですから良く分かりますが、なぜそうではなくあなた
 が出てくるのですか。」
 エクストラ製薬の社長、上月は、尋ねる。その疑問に雅貴、平静を装って答える。
「父の名代です。それに、父が専任捜査官なら、私はSEPです。」
 そう言って、雅貴はポケットからグリーンのカードを出し、上月に示す。
「SEPの事はご存知ですね?私たちは所属する地方公共団体の首長、私たちの場合は県知事と市長ですが
 その方々から正式な任命を受けている捜査ボランティアです。」
 そこで一息おく雅貴。そして続ける。
「その捜査域は、県内全域。そして分野無制限。張り込ませて頂きますよ。」
 上月はそれを聞き、ため息を吐いて言う。
「分かりました。それで納得しましたよ。お願いします。人工骨髄は世の中の骨髄不全症の人たちの
 希望なのです。それは、同時に多大な金づるでもあります。もちろん私どもは安価で提供できる様
 努力しておりますがね。もし他の製薬会社にデータがわたれば、それこそどんな高価な代物になっ
 てしまうか分かりません。」
 雅貴は頷くと、言う。
「しかし、セイント・テールが相手では私も保証できかねます。そこでお願いがあるんですが………。」

「もしもし、高宮警視?」
 聖華市警察。捜査2課長室。そこにかかってきた雅貴の電話。
「雅貴君?何やってるの!」
 尋ねるリナに、雅貴。
「人員かして。」
 SEPの表の身分はただの捜査ボランティア。警察の人員を動かす事などできない。
 だが、雅貴はグリーンカードを持つ本物のSEP-警察庁直属の非公式警官だ。
 リナは、黙って協力するしかない。しかし、それでも尋ねる。
「どうするのよ。」
 電話の向こうから、雅貴の声が返ってくる。
「伝説の怪盗、セイント・テールを相手にするんですよ。」
 その台詞を聞いた瞬間-------リナの中から言いようの無いものすごい闘志が湧いてきた。
 聖華市警察の精鋭、50人が到着したのは、それから数時間の後である。

「リナおばさん、気合入ってるなぁ。」
 呟く雅貴。それを聞きつけたリナは、
「あなたこそ、どうしてここに!?」
 と尋ねてくる。雅貴は平然と答えた。
「この一件と、母さんの一件は絶対どこかで繋がってる!ま、勘ですけどね。」
 大嘘である。
 しかし、リナはしっかり納得してしまった。そして言う。
「そう言えば、あたし昔あなたのお母さんをセイント・テールじゃないかって疑った事があるのよ。」
 雅貴は、内心動揺したが、それをおくびに出さずにあきれ口調で言う。
「へいへい、結構な勘で。」
 二人は、今コンピューター室の前にいる。
 コンピューター室は、厳重にロックされている。
 この中に入るには、二人が張っている入り口しかない………はずであった。

 コンピューター室の中。
 その中で、コピーロボットのセイント・テールは、手首から伸びるコードをメインコンピューターに接
続し、人工骨髄のデータを自分のサブ電子頭脳の中に読み込んでいた。
 通風孔を伝って入り込んだのだ。
 全てのデータを移し終えて、メインコンピューターにウィルスをぶち込む。
 そして、コードをしまう。その時、巻き上げるのに勢いづいたコードが手首にぶつかり、音を立てる。
 舌打ちするコピーロボット。

 小さな音だった。
 金属と金属がぶつかる音。
 ともすれば見逃す音を雅貴はコンピューター室の中から聞いた。
 雅貴は慌てて、SEPのカードの磁気リード部分をコンピューター室のキースロットに差し込んでデータ
を読ませる。
 雅貴のSEPグリーン・カードは、どのようなカードキーをも解除してしまう。さらに暗証番号付きの
キースロットでも同様に解除できるのだ。
 コンピューター室の扉が開く。
 状況についていけない高宮警視をほっといて、雅貴は中に踏み込む。
 その中には、セイント・テールがいた。
 母の中学時代の姿を生き写しにしたセイント・テールが。
 だが、一つだけ違うところがある。
 目の前の怪盗の首が離れて伸び、こちらを向く。そこから、多くの機械が出ていた。
 雅貴の中で、これまでに出た全てのデーターが一瞬にして組まれていく。
「なるほど…………。」
 雅貴は、いつものブルゾンの懐からトランプのカードを出す。
 そして、数枚のトランプが雅貴の手から放たれる!
 トランプは、見事にコピーの伸びた首筋に命中する!
 首から火花を散らすコピー。数種の機械が首筋から落ちる。
 コピーは、力の抜けたような動きで通風孔に潜り込む。
「待てっ!」
 追いかけようとする雅貴。通風孔に潜り込もうとする。
 一瞬、目の前のコピーが振り向く。その瞳に、涙がにじんでいた。
「え…………?」
 雅貴は呟く。それにかぶさるようにコピーの呟きが響いた。
「どうして…………?アスカJr.………?どうして……?」
 雅貴は、それを聞いたとたん金縛りに遭ったように動けなくなる。
 昨日、自分が消える夢を見てはなおさらだ。
(俺と親父を勘違い!?俺の目尻は母親似なのに、なぜ?)
 雅貴は、呆然としてコピーを逃がしてしまった。

© Kiyama Syuhei 木山秀平
© 立川 恵/講談社/ABC/電通/TMS
(asuka name copyright from「怪盗 セイント・テール」)
禁・無断転載