Report 4 第3楽章:複製の胎動
一般病室に移動した大貴。
恋美は起きて後、その事を知らされて今度は嬉し泣きをし始める。
医師も、
「信じられない奇跡。」
と言っていた。
知らせを聞いて、リナが駆けつける。
更には、佐渡も。もちろん、スクープが目当てなのだ。
もっとも、リナに無理矢理報道協定を結ばされる羽目になるのだが。
「アスカ、自分や芽美が狙われる心当たりはない?」
尋ねるリナに、大貴は、
「そんなもの無いぞ。逆恨みならともかく……。」
と、当然の答えを出す。
「やっぱり………。」
リナは落胆し、病室を出て行く。
雅貴は、そんなリナを追う。
「リナおば……いや、高宮警視!」
病院のエレベーターの前でリナを捕まえる。
「どうしたの?雅貴君。」
尋ねるリナに、雅貴は答えた。
「俺も、捜査に参加します!」
それを聞いて、リナは驚き、そして言う。
「冗談じゃないわ!あなたも狙われる可能性があるのよ!プロに任せておきなさい!」
そんなリナに、雅貴は自分のポケットから一枚のカードを取り出して示す。
SEPの、グリーン・カードを。
そして言う。
「これは、探偵気取りの中学生、羽丘雅貴が言ってるんじゃありません。Students Exlent Police 羽
丘雅貴が言っているのです。SEPの条項は、ご存知ですね。高宮警視。」
それを聞いて、リナは苦虫をかみつぶしたような顔をして呟く。
「分かったわ。SEPの権限は、捜査活動の自由と、それにおける警察組織の全面協力。仕方ないわね。」
雅貴は、真剣な顔をして呟く。
「急がないと……とんでもない事が起こる予感がする………。」
薄暗い部屋の中で、芽美は目を覚ました。
ベッドに縛り付けられているのが分かる。
そして、横になっている芽美を見下ろす男。
白衣を着ている。
「あなたは、これからすばらしい実験に立ち会うのです。」
白衣の男が言う。芽美も、何か言おうとするのだが何も言えない。
「麻酔薬が効きすぎたようですね。最も、意識さえはっきりしてくれれば、こちらとしては文句はない
のですが。」
白衣の男は、後ろを向いて機械の固まりを操作し始める。
それと同時に、頭の上のほうで光が点滅する。
無駄な記憶が増える感覚。
まったく同じ記憶を持つ、二人の人間が自分の中にいる感覚。
芽美は、それを感じていた。
そして、それが収まった時--------。
上にあった機械の一つが降りてくる。
それは、棺桶のようなカプセルであった。
カプセルは、芽美の横たわるベッドの真横につく。
湯気を吹くカプセル。そして、そのふたが開く。
カプセルの中のものが、ゆっくりとおきあがる。
芽美は息を呑んだ。
そこにいたのは、セイント・テール!かつての自分------。
白衣の男はにこやかに言う。
「どうだね。我ながら、見事なコピーだ。」
男は、カプセルから起き上がる『セイント・テール』を見つめる。
「どうだね。自分の事が分かるかね。自分が誰のコピーであるか。」
カプセルの少女は、こくんとうなずく。
「成功だ……………。コピーがコピーとしての自覚も持っている……。」
男は呟くと、感動に涙を流し、自分の世界に入ってしまった。
そこで、ようやく薬が完全に切れ、芽美に体の自由が戻る。
「その、あたしに良く似た娘を……どうする気?」
叫ぶ芽美。だが、その芽美を冷たい瞳で見るカプセルの少女。
そして、少女は言った。
「あたしは、あなたに良く似ているのではないわ。あなたそのものなの。」
「え?」
尋ねる芽美に、少女は更に続ける。
「博士のお力によって、今まで抑圧されていたあなたが開放されたのがあたし。」
「どういう事!?」
その芽美の言葉に更に言葉を紡ごうとする少女を、博士は押しとどめる。
「言葉が過ぎるぞ。」
そこに入ってくる黒スーツの男たち。
「博士、実験はどうでしょうかな?」
ライムが聞いてくる。桂一は、言った。
「見ての通りの大成功。」
ライムは、それを聞き、満足したような笑みを浮かべて今度は芽美のほうへ目をやる。
「では、彼女をおつれしてよろしいですか?」
桂一はうなずく。
そして、ベッドの横にあるボタンを押す。
ベッドを覆うようにシェルターが現れ、そのまま冷気が吹き出す。
生体冷凍保存に使われる特殊ガス。
芽美は、その時間を一瞬にして止められる。
ライムは、ベッドを押しながら、ドアの向こうへ消えた。
とりあえず、雅貴は母親が連れ去られた車を捜す事から始めた。
幸いにして、父親がそのナンバーを覚えていたのだ。だが、それはすぐに空振りに終わる。
すぐに見つかったのだ。
しかもその車は盗難車で、すぐに持ち主が現れた。もちろんその持ち主は事件とは無関係。
だが、車はすぐに鑑識に回される。リナの見事な配慮だった。
「こまった………。手がかりがまったく無い……。」
雅貴は、病院の父親の部屋で呟いていた。
そこへ目の前の父親が言う。
「焦るな。今は待つ時だ。そうは思わないか?」
「でも、母さんが………。親父は心配じゃないのかよ!」
雅貴の焦りが声に出る。母の事が心配なのだ。
しかし、父親は落ち着き払った声で、
「あいつは大丈夫だ。信じろ。」
と答える。その大貴の様子に思わず雅貴は、
「根拠はあるのかよ!」
と叫ぶ。大貴は、目をつぶりこう答えた。
「ない。だがな、焦れば負けだ。探偵は、沈着冷静に行動するのが常だ。それができなければ失敗する。
どんな時にもポーカーフェイス。でないと、相手に弱みを見せる事になりかねない。」
雅貴は、それを聞くとふてくされた様に目を床にむける。
そこに恋美が入ってくる。
「パパ、お兄ちゃん、手紙と新聞、とってきたよ。」
今日は兄妹二人して学校を休んだのだ。
大貴は、新聞を開く。それを横目で見ながら、雅貴は手紙をチェックする。
(もしかしたら、手がかりでもあるかも……。)
雅貴は、そう思ったのだ。
その手紙の束の中で一際目立つ白い封筒。
切手も貼ってなく、宛先はたった一言。
『アスカJr. 様』
「?????」
首をかしげる雅貴。父親である大貴をこういう言い方で呼ぶ人間は、数えるほどしかいないはずだ。
なぜなら、大貴はこう呼ばれる事を「子供みたいだ」と、嫌うからである。
(嫌な予感…………。)
雅貴は、その封筒を開ける。
糊付けが、ペリッと言う音を立てて開く。そのとたん--------。
BOMB!!!
軽い爆発音。沸き立つ少量の煙。舞う紙ふぶき。
大貴が、雅貴のほうを振り向く。その雅貴は、何が起きているのか理解に苦しんでいた。
「!?!?!?!?!?!?」
軽いパニックを起こしている雅貴の手に、一枚のカードが握られている。
大貴は、それを奪い取り読み上げた。
『今夜、エクストラ製薬より、人工骨髄のデータを頂きに参ります。
St.Tail』
「なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
叫ぶ大貴。雅貴はそれで我に返る。
「そうか。母さんをさらったのは、そういう事か。でも、どうやって説得したんだ?」
呟く雅貴に、大貴は叫ぶ。
「ばかな!セイント・テールは確かに俺が捕まえたんだ!そんなことありえない!」
雅貴はそれを聞いて、呟く。
「とにかく、親父。敵は動いた。今度は俺達が動く番だ。」
© Kiyama Syuhei 木山秀平
© 立川 恵/講談社/ABC/電通/TMS
(asuka name copyright from「怪盗 セイント・テール」)
禁・無断転載