Report 6 捜査官たちの出会い


 雅貴の大声でつ〜〜んとなった耳を押さえて難しい顔をする令。
 そう。先程の言葉はテープではなく、本人の肉声だったのだ。
 秘書が近くで機械的に言う。
「局長。そろそろ(機密事項により削除)の時間です。そろそろ行かねば……。」
 令は苦虫を噛み潰したような、されどさっぱりしたような顔で答えた。
「ああ。解ってる。」

 翌日は土曜。学校は休みである。
 雅貴はため息をついて居間兼応接間のソファに座っていた。
「まったく……困ったもんだ。」
 当然、昨日の電話の事をいっているわけである。
 無言でじっと考え込む雅貴。
 一体どんな人間が来るのだろうか。
 どこかの官僚のようながちがちの人間だろうか。
 それとも、とんだ悪良識の持ち主だろうか。
 雅貴はため息をつく。
 その時、居間のキッチン側のドアが開く。
「おはよー。お兄ちゃん。」
 声をかけて来たのは、恋美。
 雅貴は、いつもと同じように妹に言う。
「よう。やっと起きたか。」
「うん。実はね、もうちょっとしたら明日香ちゃんがくるんだけど……。」
「えっ!」
 思わず叫んで立ち上がる雅貴。そして言う。
「ちょっと待て!!こっちもお客さんがくるんだぞっ!!」
 すると恋美。
「そうなの?それじゃ、あたしたちがお茶とか出してあげる。」
 そう言うとさっさと着替えに上の自分の部屋に上がる。
 そんな妹に雅貴は叫ぶ。
「おい!!お前、自分の用事はいいのかよ!!」
 すると、妹の部屋の中から返事が返ってくる。
「用事って言ったって、2人でどこかに行こうかくらいしか考えてなかったんだもん!それよりもこっちの方が
 面白そうじゃない。」
 その言葉に、雅貴は絶句して呟く。
「……面白そうってなぁ………。」
 こっちはそれどころじゃない。そう言おうとしたその時、玄関のベルの音がする。
 インターフォンを取る雅貴。それと連動して訪問者確認用のモニターが作動して画面に訪問者を映し出す。
「すみませ〜ん。」
 見慣れたその訪問者は……。
「あ、ゆうきちゃん。」
 そう。明日香だった。

 明日香と恋美がキッチンでお茶の用意をしている間、雅貴はじっと居間でうろうろしていた。
 ときおり、キッチンに向かって声をかける。
「なぁ……やっぱ、俺がやるからいいよ。」
 そう言う雅貴に返ってくる言葉は。
「いいのいいの。お兄ちゃんはゆっくりとお客さんを待っててね。」
 と言う妹の言葉。
 雅貴は手持ちぶさたに居間で行き場の無い様に歩き回るだけ。
「まいったなぁ……。」
 その時。白いエプロンをした明日香が台拭きを持って居間を訪れる。
 居間のテーブルの中央にある花瓶を持ち上げて、テーブルの上を拭く。
「ごめんね。ゆうきちゃん。」
 済まなそうに言う雅貴に対し、明日香はにこりと微笑みを向けて言う。
「いいえ。いいんです。あたしも、こうしていた方がいいし。でも……。」
「でも?」
 不思議そうな顔をする雅貴に明日香。
「こうしてエプロンとか着てると、まるでお嫁さんみたいだなぁって……やだ。あたし、何言ってんだろ。」
 少し顔を赤らめてうつむき、台を拭く明日香。
 そんな彼女の様子を見て、雅貴は思う。
(なんか……かわいいなぁ、ゆうきちゃん。)
 そんな雅貴の思いを知ってか知らずか。
 明日香が雅貴に尋ねてくる。
「今日来る雅貴さんのお客さんって、誰なんですか?」
 その明日香の言葉に雅貴は我に返って答える。
「ああ。リナおばさんと……。」
 その答えを中断して、やはり玄関のベルが鳴る。
 雅貴は、嫌な顔をして言う。
「来たかぁ……。」
 そして、玄関のインターフォンを取る雅貴。
 現れた顔は紛れも無くリナだった。そしてその後ろにいる2人の女性。
 おそらくは彼女たちがICPOの監査員とやらだろう。
 雅貴はため息をついてドアを開ける。
「いらっしゃい。」
 すると、リナが答える。
「こんにちは。雅貴くん。」
 そしてリナは半身を引いて後ろに下がり、2人を紹介する。
「こちら、FBIでルージュ・ピジョンを追っていたエリザベス・キョウコ・リーさん。」
 リズが妙に軽い軽蔑を浮かべたような顔で雅貴にその手を差し伸べる。
「よろしく。Mr.Asuka 3rd」
 リナはもう1人の女性を紹介する。
「彼女のパートナーを務める、ナンシー・アルフォートさん。」
「お願いしますね。」
 リズの態度を見て冷や汗を浮かべながら、ナンシーは雅貴に握手を求める。
 両方と握手を交わしながら、雅貴は一つの事を思っていた。
(この2人……非常に対照的のような………。それに、リーさんのこの妙な軽視的な視線、気になる……。)
 一方、明日香。
 ドアの影からその様子をじっと見て、そして慌ててキッチンに引っ込む。
 そして、その場にいる恋美に聞こえない様に呟いた。
「な……なんでこんな所にリズとナンシーがいるのよっ!!」
 いきなりの出来事にびっくりして、心臓がその鼓動を早める。
 それを静めようと、明日香は胸に手を置く。
「どうしたの?明日香ちゃん。」
 そんな明日香の異変に対して、恋美は不思議そうな顔で尋ねてくる。
 明日香は、呼吸を落ち着かせながら恋美に言う。
「なんでもないわ。ちょっとね……。」
「ふぅん……。」
 少々ふに落ちないような表情を見せながらも、恋美はそれ以上は尋ねてこなかった。
 そして、明日香は心の中で呟いた。
(あぁ……びっくりしたぁ………。)

© Kiyama Syuhei 木山秀平
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