Report 5 やってくる者にまつわる話


「はい、もしもし。」
 ホットラインの電話を取る木下警視。
「はい……はい……。え?高宮警視もおりますが……。わかりました。」
 TV電話の画像表示は『SOUND ONLY』となっている。
 木下警視はおもむろにTV電話のボタンを押す。
 どうやら、相手に画像を受像し、また会話をリナにも聞こえるようにオープンにするよう支持したらしい。
 そして、TV電話の画像が浮かび、また課長室にある汎用モニターにも同じ画像が浮かぶ。
 画像に浮かんだ相手を見て、リナは慌てて敬礼する。
 また、木下警視も同じように敬礼する。
 電話の相手は、大沢令。
 警察庁の刑事局長にしてSEP最高司令官。彼ら一回の警視陣にとっては、天の上にも等しい人間だ。
「いや、楽にしてくれ。久しいね。2人とも。」
 そう言う令に、リナは言う。
「いえ。そんな……。」
「もったいないお言葉です。」
 木下警視も言う。
「礼儀的な挨拶を交わす暇はない。早速だが、用件に入らせてもらう。」
『はっ!!』
 令の言葉にハモって敬礼する2人の警視。
 令はそれを黙殺して用件を話し出す。
「実は、本日の午前にICPOから査察官を送ると連絡があってな……。」
 話の内容は、リズとナンシーのことだった。
「内政干渉だと文句を言ったのだが、ルージュは元々向こうが捜査していたわけだから、こちらにも権利があ
 るとねじ込まれてしまったのだ。すまんがよろしく頼む。」
 そう言う刑事局長に向かって、リナは言う。
「でも、それでは現場から混乱が……。」
「そのために君たちがいるのだろう?」
 令の言葉に絶句するリナ。確かにそのとおりではあるのだが。
「しかし、ルージュ・ピジョンに関しては少々事情が……。」
 木下警視の言葉に令も頷く。
「わかっている。だが、向こうの捜査官はルージュに言いようにされて来た連中。一方の雅貴くんはそう言う
 ような事にはなっていない。だから、査察官がやって来たら彼に引き合わせるんだ。彼ならうまくやってく
 れるかもしれないだろう。」
 そう言うと、令は意味ありげにウィンクする。
 それを見て、リナはため息をついて言う。
「それは、買い被り過ぎではないでしょうか。」
 だが、令はそれに介せずに言う。
「仕方が無いのだ。急な事で時間が無かったしな。それでは、2人ともよろしく頼むぞ。」
 そう言って、受話器を置く令。
「え…ちょっと!!お待ち下さい!」
 木下警視が慌てて引き止めようとするも、電話は無情にも切られる。
 受話器とモニターのステレオから発信音が流れ行く中でリナは肩を竦める。
「まったく……どうします?木下警視。」
 尋ねるリナに木下警視は答えた。
「仕方が無いでしょう。高宮警視。査察官がやって来たら、引き合わせるほかありません。」
「雅貴くんと……ですか。」
「ええ。アスカ3rdと……。」
 ちょうどその時。ホットラインとは別の内線電話が鳴り響く。
 木下警視はその電話を取り、言う。
「はい。こちら3課長室。」
 すると、電話の向こうで受け付けの婦警が言う。
「課長。ICPOの査察官と名乗る方々がお見えになっています。なんでも、ルージュの捜査を行っている部所の
 長に会わせて欲しいとか……。」
「来たか……。」
 ため息交じりに呟く木下警視。すると電話の向こうで疑問の声がする。
「は?」
「いや、何でもない。身分証の確認はしたかね?」
「はい。」
「解った。通してくれ。」
「了解しました。」
 そして、木下警視は電話を切りため息をつく。
 それを見てリナは木下警視に言う。
「ご愁傷様ですね。私もお手伝いしましょうか?」
 木下警視は、弱々しく頷いて言った。
「お願いします。高宮警視。」

「たっだいまぁ〜〜〜〜って、今日は誰もいないんだったな……。」
 家に帰って鍵を開ける雅貴。
 そのまま自分の部屋に行こうと階段を上がる。
 その時。電話が鳴った。
 慌てて電話に出る雅貴。
「はい、もしもし。こちら、飛鳥もしくは羽丘です。」
 モニターが受像した画像が出る。
 受話器の向こうから聞こえて来たのは雅貴の良く知る相手である。
「あ、リナおばさん。」
 そう。電話の相手は高宮警視。
 そして、彼女から電話があったと言う事は……。
「事件ですか?俺の手腕が必要とされてるんですか?」
 不謹慎だが、少しわくわくしながら尋ねる雅貴。
 そんな彼を見て、リナはため息をついて言う。
「まぁ、事件と言えば事件なんだけど……。」
 そして、リナはICPOのルージュに関する査察官が聖華市にやって来た事を雅貴に告げる。
 雅貴は、その旨を聞くと絶句する。
 数秒間の沈黙。
 そして、叫んでいた。
「なっ……なんですか、それぇ〜〜〜〜〜!!!SEPはICPOの所属でもあるんですよっ!!俺が動いている事では、
 納得が行かないって言うんですかっ!!」
「怒るのは解るわよ。でも、向こうの捜査官が『信用ならない』って言うんだから。」
 リナの言葉に雅貴。
「冗談じゃないですよ!!今までほいほい獲物まで取られて逃してたのは向こうの捜査官でしょう?そんな連中
 にうだうだ言われたくないです!!」
「でもねぇ……。」
「解りました!!これから大沢局長に電話しますよ!それで……。」
「もう手後れだわよ。こっちに既に来てるんだから。」
「そんな!」
「とにかく、明日あなたの家に訪問して引き合わせるからね。心の準備だけはしておいて。」
 そこで電話は切れた。
 雅貴は慌てて受話器を置いて、1つのダイヤルをプッシュする。SEP専用のホットラインだ。
 発信音が消えて相手が出る。ちなみにモニターの表示は『SOUND ONLY』だ。
「もしもし!?飛鳥ですっ!!」
 雅貴の威圧的な言葉を無視して、電話機から言葉が流れる。
「飛鳥君。君の事だからすぐに電話をかけてくるだろうと思ってこのテープを吹き込んでおく。申し訳ない。
 じつは、今回の査察を受け入れねば米国からスーパー301条などの貿易に関する特殊法令をかけると脅され
 てしまったのだ。我々はいいが、そうなると日本の産業界が困るのでな。すまんが今回は日本経済のために
 涙を飲んではくれまいか。総理の苦悩も分かってくれ。」
 そこで発信音が鳴る。
 雅貴は思いっきり息を吸い込んでから叫んだ。
「ふざけるなあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!そんなことで納得できるかあああああ!!そーやって脅しに屈服して、
 どーするんですかっ!!何が悲しゅうてそんなこと納得せにゃならんのだ!!なに考えてんだっ!内政干渉じゃ
 ないかよ!!S-Fileの一件と言い、俺をSEPにした時と言い、いいかげんにしろぉ!」
 そして、雅貴は受話器を電話機に叩きつけた。
 肩でぜえはあ荒い息をする雅貴。
 そのまま上の自分の部屋に上がり、ベッドに転がる。
 雅貴はベッドに転がったままでため息をついて呟いた。
「ったく……。なんてこったい………。」

© Kiyama Syuhei 木山秀平
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