Report 4 期待されるもの


 飛鳥(羽丘)家の食卓が雅貴の一件で沸いた翌日。
 県立聖華南高等学校の昼休み。
 雅貴の元に担任から呼び出しがかかった。
 と、言うわけで。雅貴は職員室のドアを叩いて中に入る。
「失礼します。」
 すると、いきなり担任から声がかかった。
「おう。来たか。」
 振り向く雅貴。そこには優しい面影を持つ雅貴のクラス担任、甲斐隆臣先生がいた。
 ちなみにあだ名は『GTK』である。意味は……言うまでもないだろう。
 たんに彼がこの学校においてその人柄が最も評判がいいためにつけられたあだ名だ。
「まぁ、座れ。」
 そう言って雅貴に自分の席の前に置いてあるパイプ椅子を勧める甲斐。
「長い話ですか?」
 尋ねる雅貴に甲斐は答える。
「いや、そうじゃないんだ。だが、ずっと立ってるのも疲れるだろ?」
 にこやかに言う担任に、雅貴は頷いて薦められるままに席に座る。
「それでは失礼して……。」
 座ったと同時に、担任の甲斐先生は雅貴に尋ねる。
「うちの学校の職員連でのお前の評判は知ってるな?」
「ええ……。」
 答える雅貴。雅貴はいろいろと事件に首を突っ込むので、学校内では問題児扱いされる事も多い。
 本人はしっかりとした普通の学生なのだが、そう言う目立つ所があるとやっかまれやすいものだ。特に学校
の先生たちには。
「学生はおとなしく勉学に励めばいい……。他の学校にまで首を突っ込むな……。」
 担任の言葉に、雅貴。ピンと来た顔で言う。
「あ、なるほど。前の聖ポーリアでの事件(木山注:File12参照のこと)の事ですか。」
「そうだよ。最も、それだけじゃないんだがね。」
「それとも、アストリア王室の一件(木山注:後日ファイルに加える)ですか?」
 甲斐は沈痛な面持ちで頷いて言う。
「学校の方にも結構苦情が来てるんだよ。自分の受け持つ学生にあんな危ない事を……ってね。」
「『子どもの無軌道を許すな』って、ヒステリックな連中も多いですからね。最近。実際、ほっといて欲しい
 ですよ。」
 2人は同時にため息をつく。
「君は親があれだし、良心的な人々は君を支持してくれている。もちろん俺もな。だが、余計な悪良識を持つ
 人たちは君を理解してくれないだろうね。うちの職員にも多い。」
「自分の街ですから、自分で守る……当然の事でしょう?」
「子どもが出張る必要性は無いって言うよ。彼らは。」
 雅貴は苦笑して答える。
「大人だけではどうにもなりきらない状況があるからこそ、興信書士やSEPができたんですがね。」
 雅貴がここで言うSEPとは、当然表の身分でのSEPの事である。
「まぁな……でも、そんな事を君に言うために呼んだんじゃないんだ。」
「と、言うと?」
 雅貴の疑問の言葉に甲斐は答える。
「今回の小さな騒動くらいなら何とか押さえる事ができた。他人が何を言おうが気にするな。」
 そう言って、甲斐は爽やかに笑う。そして続ける。
「どんと行け。親も一応は理解してくれてるんだろ?自身持って行けよ。」
 甲斐はもしかしたら雅貴が学校が自分の事で何か言っているのが気になっているのではないか、と考えてい
たのである。
 実はそれは当たっていた。雅貴は密かに学校側の反応も気にはしていた。
 ただ、普段はあえて考えないようにしているだけであったのだ。
 雅貴は、担任に頭を下げて言う。
「すいません……。」
 甲斐は、立ち上がり雅貴の背中を叩いて言う。
「なぁに、可能性を開くのが俺たちの役目だよ。それがお前の選んだ道ならば、胸を張っていけ。飛鳥。」
「はい!!」
 雅貴は、元気な返事を返した。

 同時刻。
 聖華国際空港に2人の女性が降り立った。
 リズとナンシーである。
「さてと……。」
 荷物を床においてナンシーはリズに尋ねる。
「これからどうするの?」
 リズはハンドバッグから一枚のメモと手紙を出し、ナンシーにメモを見せながら言う。
「ここに行くのよ。」
 そこには、ただ一言。

  『県警本部 聖華市御橋中央 2-9』

 と書かれてある。そう。リズは聖華県警に顔見せにいくつもりなのだ。
 ナンシーはそんな彼女を見て、ただため息をついた。
 そして、列に並ぶ。
 タクシー待ちの列だ。
 数分待って自分の番が来る。
「まったく……。たまんないわね。いちいち並ぶのって。ばかばかしいわ。第一、横にいっぱいキャブがある
 じゃないの。なんでみんなそっちに行かないのかしら。」
 毒づくリズに、ナンシーは答えた。
「しょうがないじゃないの。これがここの文化なんだから。」

 県警本部捜査3課長室。
 全部で3つある捜査課の中でこの3課は、連続窃盗や広域犯罪捜査を担当する課である。
(1課は殺人・強盗に代表される粗暴犯担当。2課は詐欺・知能窃盗初動・法違反商法等の知能犯担当。)
 とりもなおさず、怪盗ルージュ・ピジョンに関しての捜査もここの人員が受け持っている。
 そして、それに関する捜査権は知事の意向により、全てにおいてアスカ3rd----雅貴が受け持っている。
 捜査3課第5班。通称ルージュ・ピジョン対策班。
 彼らは3課長を直属の上司として、雅貴を捜査指揮顧問として仰いでいるのだ。
 閑話休題。
 そんな捜査3課の長である初老の木下警視は、この日もゆっくりと課長室でお茶を飲んでいた。
 その3課課長室のドアを叩く音がする。
「どうぞ。」
 木下警視が答えると、ドアが開いて一人の女性が現れる。
「やぁ。高宮2課長。」
 そう。入って来たのは県警捜査2課長、高宮警視であった。
「こんにちは。」
 高宮警視----リナは、木下警視ににこりと笑いかける。そして、言葉を続ける。
「じつは、この書類に判を押していただきたいの。」
 そう言って、リナが示した書類。それは以前に起きたとある(雅貴とは関係ない)別の事件の報告書だった。
「怪盗903号……ボーイ・ナイトの一件による最終報告ファイルですな。わかりました。」
 木下警視はそう言うと判を取り出して書類に押す。
 その時、デスクの上にあるTV電話のベルが鳴った。

© Kiyama Syuhei 木山秀平
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