Report 2 消息不明?消息有明!!!


「ルージュの事……?」
 眉をひそめて言う雅貴。
「Yes.Yes、あのルージュ・ピジョンが生きていたと言うのは、我々にとってもBigなNewsなのでーす!!」
 声を張り上げるボブ。
 その様相に、雅貴はため息をついて言った。
「まぁ……別にいいですけどね。佐渡のおじさんの紹介でもあるし。でも、1つだけ言っておきます。」
「ナンですか?」
「大袈裟な記事は、書かないで下さいよ。」
「O.K.請け負いましょー!!」
 そんな会話を交わす2人の様子を見て、佐渡はやれやれと言うようにため息をついた。

 2日後、アメリカ・ワシントンD.C.のFBI本部にて。
(筆者は英語はさらさら駄目なので、この辺の会話は日本語で行わせて頂きます。)
 本部内のカフェテリアにある大画面T.V.からニュースが流れ出る。
『次のニュースです。本日、月面にてホテルヴェネトンルナ支店がオープンいたしました。民間による月面ホ
 テルの進出は、これでちょうど100軒目に……』
 彼女は、それを聞きながらポツリと呟く。
「また、ヒューストンの宇宙港(スペース・ポート)が騒がしくなるわねぇ……。」
 この時代、すでに月や火星を始めとする太陽系内・外惑星への人類の進出が始まりかけている。
 観光目的でこれらの惑星を周遊し、滞在するコースは世界中の観光会社の売りとなっていた。
 既にアメリカや日本などでは、21世紀始めからこれを可能とする技術を完成させている。
 それに関しての関連業種(ホテル・食品・体育機具メーカー等)がしのぎを削る世の中である。
 閑話休題。
 ポツリと呟いたかの女性は、再び自らの目の前にあるランチのハンバーグを右手のナイフで切り、左手の
フォークで突き刺して口に運び、その上でパンをかじり、コーヒーをすする。
 そんな彼女の前の空席に、また一人の女性が座ってくる。
 ランチをとっている彼女が黒髪のロングであるのに対して、もう一人はブロンドの碧眼。その右手には新聞
が握られている。
「こんにちは、ベティ。」
 ブロンドの女性は、黒髪の女性にそう呟く。
 黒髪の女性は少し顔をしかめて、こう言う。
「ベティはやめてよ。はすっぱな感じがするわ。ナンシー。」
 ナンシー。ナンシー・アルフォート。
 ブロンドの髪に黒いセーターを着込み、白のスカートを着ているその女性は、そう書かれたIDカードの名札
をその胸につけている。
 それは、ランチをとっている黒髪の女性も同じ事。
 彼女は青いVネックのセーターを着ており、その下にベージュのポロシャツを着ている。下はジーパンだ。
 その胸には、やはりナンシーと同じようにIDカードが名札として輝いている。
 その名は『エリザベス・キョウコ・リー』と記されている。
 2人は、この職場での同部所における同僚であった。
「それじゃ、リズ。あなた、今日の『アルカナ』読んだかしら?」
 そう問い掛けるナンシーに、エリザベス----リズは答える。
「え?『アルカナ』って、タブロイドにも等しい2流紙じゃないの。なんでそんなの……。」
 そう答えるリズに、ナンシーはやれやれとでも言うように肩を竦める。
「たまには、そんな新聞も見るもんだわ。たまには思いがけない手がかりがあるものよ。」
 そう言って、彼女はリズに自分が持って来た新聞を渡しながら、言葉を続ける。
「ルージュの奴が消えてから、あなたって本当に仕事に覇気と言うものがないでしょ。この記事読んだら、そ
 れも吹き飛ぶわ。」
 ルージュ。そう。リズとナンシーはアメリカでの怪盗ルージュ・ピジョンの専任捜査官だったのだ。
 だが、オークショット邸の事件を境に、ルージュの足取りはようとして知れない。
 ルージュらしき存在が日本に近付き、自衛隊に撃墜されたと言う話も飛び込んでいる。
 FBI本部も、ルージュは既に死んだか引退したものと決め、ルージュ関係の予算も削減され、彼女たち自身
も専任捜査官の任を解かれている。
 リズは、ナンシーから渡された新聞を読む。
 彼女の瞳が、新聞のある記事を捕らえた。
『ルージュ・ピジョンは生きていた!!』
 その見出し。
 更にその記事には、現在日本でルージュを追いかけていると称する少年の写真。
 普通なら、一笑に伏す所だろう。また、2流紙が馬鹿な事を書いてるわと。
 だが、その記事は細かすぎ、そして信憑性があった。
「……生きてた……生きていやがった………!!!」
 リズは、知らずのうちにそう呟いていた。
 呟きの声が、歓喜に打ち震えている。
 誰がチャンネルを変えたのか、T.V.は日本のアニメである『ル○ン三世』を映しており、しかも場面はかの
『銭○のマーチ』がかかるシーンだった。
 リズは『銭形の○ーチ』に合わせて席を立ち、そして食べかけのランチもほっといてカフェテリアから出よ
うとする。
 慌ててそれを片付けるナンシーに向かって、リズは叫ぶ。
「なにやってるの!!ナンシー!!行くわよっ!!!」
「ど、どこへよっ!!」
 片付けながら尋ねるナンシーにリズは一言。
「日本よ。」
 その言葉に、驚くナンシー。
 親友であり、相棒であるリズの仕事への覇気が消えたのは、おそらくルージュがいなくなったためだろうと
は思っていた。だからこの記事を彼女に見せたのだ。
 だからと言って、まさかここまで短絡的に動くとは思わなかった。
 片付け終わったナンシーは、思わずリズを羽交い締めにする。
「ちょ、ちょい待ち!!リズっ!!!仕事はどうするのよっ!!」
「何言ってんのよ!!仕事で行くんじゃないの!」
「日本は捜査圏外だし、第一私たち、ルージュの専任からは外されてるのよ!!」
 その言葉に、リズははっとした顔をして体の力を抜く。
「わかったわ……。」
 諦めてくれたか。そう思って、ナンシーはほっとしてリズを支える力を抜く。
 だが、それは間違いだった。
「局長に掛け合うわっ!!それから、ICPOにも連絡して私が捜査できるようにするの!!大統領にも願い出て、日
 本警察に私の捜査権をねじ込むわっ!!!」
「ああああああっ!!!!!!だからストップうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
 リズとナンシーの廊下での攻防は、しばらく続いた……。

 アメリカで、そんな騒ぎになっているとも知らずに、我らがアスカ3rd。
 高校の食堂にて久しぶりに自分で作った弁当を広げていた。(実は今日の食事当番は雅貴だったのだ。)
「やれやれ。ホントこの間はとんだ騒ぎだったよなぁ。」
 当然、この間のボブがやって来た一件である。
「しかし、3代目。お前もアメリカからの取材に応じるとはね。偉くなったもんだ。」
 そう言うのは、雅貴の前に座るジャニ系の男。彼の幼なじみの1人である田原光一だ。
「それは皮肉か?」
 尋ねる雅貴に光一は平然と答える。
「皮肉じゃねーよ。単純にそう思うだけさ。」
「あっそ。」
 そう言いあう2人に、また別の人間が言葉をはさむ。
 車椅子に乗った彼もまた、雅貴の幼なじみ。その名を遠藤透と言う。
「しっかし、どうだったんだ?取材って。」
 透の質問に雅貴も答える。
「それがよ、終始ルージュの事しか聞かねーの。なんかこう、鋭いとこ抉って来るし。」
「鋭いとこって?」
 尋ねる光一。
「なぜ、ルージュを逃すのか……ってな。」
 雅貴は、憮然とした顔で答える。
 その表情に、透と光一の2人は顔を見合わせる。
 そして言うのだ。
「まぁ、まぁ。気にするな。相手の方が、お前より上だって事だろ?」
「元々聖華は怪盗に甘い土地柄だしよ。」
 その2人の、慰めにもなっていない言葉を聞いて、雅貴は苦虫を噛み潰したような顔でうめいた。
「お前らなぁ………。」

© Kiyama Syuhei 木山秀平
© 立川 恵/講談社/ABC/電通/TMS
(asuka name copyright from「怪盗 セイント・テール」)
禁・無断転載