Report 1 きっかけは来客から
「やられたわ……。」
ルージュ・ピジョンは、悔しそうに歯噛みする。
アスカ3rdとの勝負にへまをしたのだ。
そして、現在屋根の上を逃走中。
「待てぇっ!!ルージュっ!!」
アスカ3rdの叫びが響く。
もう、すぐそこまで、彼が迫っている。
急いで逃げなくては-----。
ルージュは、所定の位置まで来ると一気に跳躍する。
そして、あらかじめ張っていたテグスの上に乗る。
ビルとビルの間に張っておいたものだ。
これで、アスカ3rdにはまるでルージュが宙に浮いているように見えるはず。
「そーはいくかっ!!」
アスカ3rdは、そう叫ぶとルージュの後を追って一気に跳躍した。
ルージュと同様に足に手応えを感じるアスカ3rd。だが、そこまでだった。
「お?よ?とっ!はっ!」
バランスを取るのに必死で足が前に進まない。
そんな彼の様子を見たルージュは、少し意地悪な笑みを浮かべて体を上下に揺らす。
つまり。
「あ、こら、ルージュっ!揺らすなっ!!お……」
ずるっ!!!!!
アスカ3rdにとっては破滅の音が。
ルージュにとっては無事逃げおおせる歓喜の音が。
響いた。
「どわああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
悲鳴と共に、ものすごい落下音。
どっす〜〜〜ん!!
その音がした瞬間に思わず目をつむってしまうルージュ。
ルージュは、恐る恐るその目を開き下を覗き込む。
そして。
路地に積まれているダンボールの中に落ちている、とりあえず無事なアスカ3rdの姿を見て、ほっとその胸
をなで下ろす。
「いてててて……。」
顔をしかめながら、その体を起こすアスカ3rd。
「大丈夫〜〜〜?」
テグスの上から声をかけるルージュに、アスカ3rdの怒声が響く。
「ば、ばっかやろー!!!死んだらど〜すんだっ!!!!」
そんな彼にルージュは冗談交じりの口調で言う。
「あ、そ〜よね。そ〜なったら、仕事に邪魔なへぼ探偵が一人へってちょ〜〜どいいわ。」
「こっ……こいつ………!!」
怒りの表情を見せるアスカ3rdにルージュはさらに言う。
「いいじゃない。あなたは見事にあたしから目的のものを守り通せたんだから。じゃあねっ!!」
テグスの上を走り、夜の闇の中に消え行くルージュをなす術も無く見送りながらアスカ3rdは叫んでいた。
「こんのやろ〜〜〜!!ルージュ・ピジョン!!絶対俺が捕まえてやる!!憶えてろぉ〜〜〜〜〜〜!!!!!」
翌日。
アスカ3rdこと飛鳥雅貴は、学校から帰って自宅のドアを開ける。
「ただいま〜〜。」
「あ、雅貴、お帰り。」
高校から帰って来た雅貴を出迎えたのは、彼の母親の芽美と妹の恋美である。
「お帰りなさい、お兄ちゃん。」
恋美がにっこりと笑う。
雅貴もそれにつられて笑う。
いつもの光景だ。だが、妹が続けた言葉がいつもの通りではなかった。
「お客さんが来てるわよ。」
その言葉に訝った表情を見せる雅貴。
「お客さん?」
「うん。佐渡のおじさんと……。」
恋美がそう言いかけた瞬間。
玄関から応接室を兼ねた居間のドアが開き、一人の碧眼金髪のどう見たって外国人な人が恋美と芽美を押し
のけるように雅貴の前に現れる。身長は190センチほどで、雅貴はちょうど彼を見上げるような形になる。
「Oh!!Nice to Meet you!!Are you Mr.Asuka the 3rd??」
その迫力に幾分たじろぎながら雅貴は答える。
「A…Ah----Yes. I'm Asuka 3rd. But My true Name is Asuka Masaki!! My First Name is Masaki!!」
雅貴がそこまで応対した時。
奥から鋭い声がする。
「Hey!!Bob!!」
その声の主---雅貴には馴染みの深いフリージャーナリストにして彼の両親の同級生である佐渡真人---は、
いきなり話しかけて来たその外人----英語をしゃべってたからアメリカの人だろう、多分----に一言二言耳打
ちする。すると、彼ははっとしたような顔になりいきなり着ている背広を整えて居住まいを正す。
その間に佐渡は雅貴に向かって言う。
「いや、いきなり済まないね。雅貴くん。こいつ本来は突撃レポーターなもんで……。」
「お、驚いたぁ……。誰ですか?この人は。」
「うん。彼はね……。」
雅貴の問いにそこまで言いかけた佐渡。それを遮るようにかのアメリカ人は流暢な日本語でそれを止める。
「ちょっと待って下さい。」
そして、咳払いをして彼は言葉を続ける。
「先程はSorryでした。あなたに会えた事でついつい興奮してしまって……。私はアルカナ・アメリカンズ・
ジャーナルの日本支社に赴任したボブ=ストライブと言います。どーぞよろしく。」
そう言って、ボブは雅貴に名刺を差し出す。
それを受け取りながら雅貴は呟く。
「アルカナ・アメリカンズ・ジャーナル??」
「アメリカでは2流の社会派の新聞社だよ。」
素早く雅貴に耳打ちする佐渡。
それに気付かずにボブは流暢な日本語で言ってくる。
「Manatoには我が社も、そして私も個人的に世話になっておりまして。それでそのManatoがMr.Asuka the 3rd
と知り会いだ、と言うので紹介してもらいに来たのでーす!」
両手を広げて、大袈裟なボディ・ランゲージ。どうやら彼の個人的な癖らしい。
「……なんでまた?」
名刺を見つめたままで尋ねる雅貴にボブは答える。
「我がStatesをも震撼させ、FBIやCIA、ICPOのPoliceたちをも子どもの手をひねるよーにその手玉に取った、
Phantom ThiefであるRouge Pigeonと互角に渡り合う事の出来るDetective Boy……。非常に興味があります
です。ぜひぜひ!!話を聞かせてもらいたいのでーす!!」
© Kiyama Syuhei 木山秀平
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