Report 10 プロミネンス・クラウン
雅貴のこめかみから、血が流れる。
ルージュはマスクに続いて次々と変装をときながら、雅貴に近付いていく。
「アスカ3rd!!」
舞台の横にいたアスカ3rd----カサミ王子が、舞台の上に登る。
ルージュは雅貴を抱き起こす。そして、その紅い瞳を雅貴に向けて叫ぶ。
「アスカ3rd……雅貴さん……!!しっかり……しっかりしてぇ……!!あたしの目の前で、もう……!!」
ルージュの紅い瞳に涙が浮かぶ。そして、ルージュは絶叫する。
「あたしの目の前で、もう、誰も……誰も、死なないでええええぇぇぇぇぇぇ!!」
泣きながら時計台に背を向けて雅貴を抱きしめるルージュ。
その様子に、カサミは近づけなかった。
ルージュと雅貴に近付く事が出来なかった。
呆然とカサミは呟いていた。
「………女神プロミネンスは既に……試練を受け入れる愛する者を……。」
そして、肩を落として口から小型のボイスチェンジャーを吐き出し、続きを呟く。
「見つけていたのか……。」
だが。無粋な奴はどこにでもいるわけで。
フローレスが剣を抜き、舞台上に乗り出してくる。
「下賎な盗賊め!!殿下から離れなさい!!」
だが、そのフローレスにカサミから言葉が飛ぶ。
「やめんか!!フローレス!!」
その叫び。アスカ3rdからカサミの声が飛んで来た事実に、フローレスは瞳を丸くする。
「あの2人に手を出す事は、許さん!!ルージュ逮捕は、アスカ3rdの仕事ぞ!!それよりも、お前は早く我が盟友
たるアスカ3rdのために、救急車でも呼んで来いっ!!これは、アストリア王家第一位王位継承者の厳命ぞ!」
「は、ははっ!!」
王子の言葉には逆らえない。何がどうなっているのか解らず混乱しながらも、王子の声で出された厳命を果
たすべく、フローレスは舞台を下りた。
「なっ!!」
キャラウェイは思わず叫んでいた。
「馬鹿な!?」
懐から、王子の写真を取り出す。
「王子が2人!?いや、一人はアスカ3rd……だが……。」
じっとスコープを覗き続ける。
「入れ替わったか!?」
叫び、そして再びスコープを除く。標的は本物のカサミ王子。だが。
舞台上に多くの警官や衛士隊が入り乱れ、標的が定まらない。
「おのれ!!」
こうなっては、一刻も早くこの場を離れるしかない。
だが。
「ぐっ!!」
心臓が動き出す。その代わり、体が動かない。薬の副作用だ。
「こ、これさえなければ……。おのれ……。」
遠巻きにルージュを囲む警官たち。
雅貴を抱きしめるルージュ。半狂乱で叫び続ける。
「早く!!早く、救急車を!!」
マスコミがルージュを撮ろうとするが、警官たちの向こうから割り込めず、それができない。
なおも叫ぶルージュ。その時。
雅貴を強く抱きしめていたルージュの体が。
他ならぬ雅貴自身の手によって、抱き締め返されていた。
「捕まえたぜ……。くそ……頭がボーッとして、目の焦点がさだまらねぇ……。」
こめかみに衝撃を受けたせいで、一時的な失神を起こし、そこからの回復がままならない状態。
雅貴の状態は、まさにそれだった。
「生きてたの……?」
呆然と呟くルージュ。だが、雅貴。ルージュの胸に包まれながらあきれたように呟く。
「勝手に殺すなよ……。」
徐々に雅貴の意識が回復していく。
それに気付いたルージュは、安堵したように笑みを浮かべる。
そして、雅貴の腕の中からすり抜けて噴水の上に飛び上がる。
雅貴はそれを瞳で追う。既に目の焦点は合っている。
「ルージュ!!」
叫ぶ雅貴。ルージュは起こったように叫ぶ。
「なによ、なによ!!生きてたんなら、さっさと返事しなさいよね!!あたし……あたし……」
「なんだよ!」
すると、ルージュは瞳どころか顔そのものまでも真っ赤にして叫ぶ。
「ばかぁっ!!余計な邪魔が入ったじゃないの!!ノーゲームよ!!今回の勝負を台無しにしたヤツ、とっとと捕ま
えなさいよ、アスカ3rd!!プロミネンス・クラウンは元の持ち主にあなたが返しといてね!!」
そして、再び噴水の水が吹き上がる。その水が消えた時ルージュはその姿を消していた。
雅貴は肩を竦める。そして、舞台上のヴェールを拾い上げる。
雅貴のこめかみからは、今だ少しばかりの血がぽたぽたと滴っている。
ヴェールのこめかみには、紛れも無い9mm銃弾が食い込んでいる。
雅貴はため息をついて呟いていた。
「また逃しちまったか……。ったく、深月博士特性の超強力防弾繊維で防御しといてよかったよ。」
おもわず、SEP付きの科学研究所の博士の名前を呟く雅貴。
そして、じっと噴水の方----時計台を見つめる。
ばさっと、雅貴は王子の扮装を解く。その下から現れたのは赤い色の線の入った白Tシャツに黒いズボンと
いう、いつもの姿。
ポケットからSEP特性のオペラグラスタイプの高性能双眼鏡を取り出し、覗き込む。
噴水……時計台……覗き窓……そして……。
ビル!!
雅貴は舞台から飛び降り、走る。近くにある自転車に飛び乗り、ペダルをこぎ出す。
「アスカ3rd!!どこへ……!!」
叫ぶカサミに、雅貴は王子の声を出していた、ミニスピーカータイプの超小型ボイスチェンジャーを口から
吐き出して、大声で答える。
「ビルだ!!」
そして、雅貴の自転車はその場を離れていく。
今だその場にいる、スナイパーを追って。
そう。既におわかりだろう。
雅貴はカサミ王子の暗殺を防ぎ、ルージュを迎え撃つために、昨日の晩からずっと、他ならぬ王子と入れ替
わっていたのだ。
雅貴は必死にペダルをこぐ。
その時。雅貴のPHSが鳴る。が、留守番モードに切り替わる。
すると、留守番モードにしてあるPHSから声が響く。
「やぁ、アスカ3rd。TV見たよ。とんでもないことになってるね。でも、ちょっと上を見てくれないかな?」
その声は科研の深月恭一博士からのもの。声の通り上を見る雅貴。
すると上にヘリコプターが飛んでいた。
ヘリコプターは凄まじい音を立てながら、雅貴に近付いていく。
そして。ヘリコプターから何かが雅貴に向かってインカムが落ちて来た。
PHSから声が響く。
「そのインカム、受け取れ!!」
落ちてくるインカムを受け取る雅貴。それをよく見る。
ヘッドセットの耳当て部分がボールを半分に割ったような回転赤色灯になっている。
左耳の耳当てからマイクがせり出している。
よくよく見るとインカムは各所で折りたためるようになっている。
それをきちんとコンパクトにたたむと、丸いボールのようになる。
インカムを頭にする雅貴。インカムから声が聞こえて来た。
「アスカ3rd!!そのインカムは、SEP専用通信システムと新しいシステムの音声入力装置を兼ねている!!これで
新しいアイテムが使えるぞ!!もっとも、まだ一部だけしか完成していないがな!!」
「新しいアイテム!?」
遠ざかっていくヘリコプター。しかし、インカムから深月博士の声が明瞭に聞こえてくる。
「開発中の『JETブレード』に使うミニジェットの単体試作品だ!使用には、キーワードが必要となる!!それを
思いっきりインカムに叫べ!!」
それを聞いた瞬間、雅貴は顔を赤くして叫ぶ。
「ちょっと待てぇ!!それはまさか、某戦隊モノや格ゲーや20世紀後半のロボットものとかのノリなのかっ!?
できるか、ンな恥かしい真似っ!?」
「やかましい!!俺はそれで育って来たっ!!それがかっこいいという育ち方をしたんだ!!文句があるか!!いいか
キーワードは『モードアップ・ドライブ!!』だ!!!」
熱き魂の雄叫びを上げる深月博士。それと同時に細長い円筒状のミニミサイルのような何かがヘリから落ち
てくる。
「ったく……。」
雅貴は自転車をこぎながら、やけくそ同然で叫んだ。
「モードアップ!ドライブ!!」
すると、そのミニミサイルが噴射を始め、雅貴の乗る自転車に追走する。
ミニミサイルは、ゆっくりと自転車に追いつき、やがてペダルの後ろの後輪フレームにアームを延ばす。
そのアームがフレームをつかみ、一旦ミニミサイルがその噴射を止める。
それと同時に、雅貴のインカムからまた、深月博士の声が響く。
「いいか、アスカ3rd!!それから後は思考制御システムに切り替わる!!お前が加速したいと思えば加速し、減
速したいと思えば、減速する!!また、使い心地を教えてくれ!!あと、ミニジェットがもつのはおよそ30分と
なっている。それを注意してくれ!それじゃあな!!」
そして、深月博士からの通信が途切れる。
雅貴は試しに、スピードを上げるように意識してみた。
すると、ミニミサイルがわずかに噴射を起こし、スピードが上がる。
雅貴は気を引き締めて前を見据え、叫んだ。
「かっ飛べええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
その思考の奔流が、インカムからジェットに流れ込む。
ミニジェット、急噴射!!そして、急加速!!インカムの赤色灯が回り、サイレンが鳴り響く!
自転車は、ドギュン!!!という音を出して、流星のようにすっ飛んでいった。
やっと体が動くようになった。
キャラウェイは一つ息をついた。
「急がなきゃならないか……。」
だが、その時。キャラウェイの耳がジェット音を捉える。
思わずまだ片付けていないライフルのスコープを音の方に向ける。
すると、そこには……!!
「アスカ3rd!!」
雅貴はジェットでかっ飛ぶ自転車から、ビルの窓に向かって叫んだ。
「見つけたぞ、スナイパー!!」
「くっ!!」
キャラウェイはライフルを構えた。そして、撃つ。
だが、当たらない。
自転車を蛇行運転させる雅貴。先程まで自転車が、雅貴の頭があった所を銃が打ち抜く。
もう一度撃つ。何度も撃つ。そして------。
カチッ
キャラウェイの持つライフルの弾がきれた。慌てて弾倉を取り出すキャラウェイ。
だが。
雅貴は自転車の蛇行運転を止めた。その瞬間、燃料が切れたか、ジェット噴射が止まる。
惰性で動く自転車。そのペダルの上に、雅貴は立ちあがった。
雅貴のその動きは、それ自体が滑らかなため、ゆっくりに見える。
だが、実際は素早い動きだった。既に雅貴の精神集中は普段の集中以上のものとなっている。
雅貴は懐からスペードのエースとダイヤのエースのセラミック・トランプを取り出して-----。
スナイパーに向かって投げ放った!!
ダイヤのエースがスコープを壊し、そのままの勢いでキャラウェイの顔に当たりかける。
「うわっ!!」
のけぞるキャラウェイ。それとほとんど同時----いや、一瞬だけ遅れてスペードのエースがキャラウェイの
ライフルにかけていた腕に当たる。
「ぐああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ドスン!!という、激しい音がする。
自転車は惰性で、ビルの下にあるダンボール置き場に突っ込む。
自転車と一緒にダンボールの山に突っ込んだ雅貴が、その時に少し打った頭をさすりながら起き上がる。
「いてててて……。」
そして、ビルを見上げた。それと同時に、パトカーのサイレンが鳴り響く。
どこか遠くにパトカーのサイレンを聞きながら、キャラウェイは悔しそうな顔をして呟いた。
右腕に、わずかながらに、滴る鮮血。
「くそう……。なんてこった……。」
無事な方の手を、懐に突っ込む。その懐に、やはり鈍く光る冷たい鉄の塊がある。
「まさか、僕にこれを使わせる人間が現れるとは……。終ったか。」
キャラウェイはそれを取り出した。そして。
「タイム……あんたは、正しかったよ……。最後は綺麗に……。下らぬ生き恥をさらす事無く……。」
その鉄の塊を。冷たい銃口を、キャラウェイは自分のこめかみに押し当てる。そして、呟いた。
「Good Bye. Great Ditective Boy.」
そして。
ビルの空き部屋。その一室に、銃声が鳴り響いた。
「なぜだ……。」
墓石を前に、雅貴は呟いた。
「どうして、みんな、死を選ぶ……。」
墓石に置かれた花束は、雅貴が置いた者である。
その墓は王子を殺そうとしたスナイパーのものだった。
スナイパー・キャラウェイ。
そのバックボーンさえ不明で、一匹狼かとも目される謎のスナイパー。
そういう事は、後から警察庁の資料で知った。
雅貴の心に、ボムス・ボーイの一件の苦い記憶(File1参照)が蘇る。
「無駄なのか……?俺のやって来た事は……。やろうとしている事は……。」
振り出しに戻る。雅貴は悔しさに唇をかむ。そんな雅貴の横に白い人影が立った。
おもわずそちらの方を見る雅貴。
その人影は男だった。左目に眼帯をしている。
男は、先程の雅貴と同じように花束を投げる。だが、その顔は----。
(笑ってる!?)
ただの笑みではない。嘲笑。死者に対する冒涜の笑み。
男は、それだけ浮かべて去ろうとする。雅貴は、思わずその背中に叫んだ。
「待てっ!!」
男が立ち止まる。そして、言った。
「悩んでも、同じことだ。アスカ3rd。なぜ、死を選ぶ?私には、お前のその言葉自体が解らんな。なぜ、生を
選ばせようとする?」
「なんだと!?」
「下らん。同じことだ、アスカ3rd。キャラウェイに他の道はなかった。あっても、私が切り離した。」
墓地に、そよ風が吹く。だが、その風のなんとまがまがしい事か!!
「お前、まさか……!!」
雅貴の呟き。男は続ける。
「アスカ3rd。所詮は、そんなものだ。自らのLifeは自ら責任を取る。貴様がどれだけ心を痛めようと、それ
だけのことだ。自らのLifeに責任を取るのは、自分だけだ。貴様ではない。そして。」
風はますます強くなる。男の言葉が続く。
「その甘さこそがお前の、そして貴様の両親の『罪』だ。私は、貴様を。貴様も血族を許さん。その罪ととも
にな。今は去っておこう。だが……いつの日か------。」
男の足が前に進む。
「プロフェッサー!!!」
雅貴の叫び。男は呟いた。
「肯定だ。」
そのプロフェッサーの言葉と共に、ゴウッと言う音がする。
突風が吹きすさび、雅貴は思わず顔を覆い、体をかばった。
次に顔を上げた瞬間。
プロフェッサーの姿は消えていた。雅貴は泣きそうな顔で、それでも毅然とした声で。
「プロフェッサー……!認めないぞ……!!」
ポツリと、呟いていた。
数日後、東京。JR浜松町駅より、数分ほど歩いた雑居ビル。
東京タワーがよく見える。位置としては大門の辺りだろうか。
そのビルの一室に、アストリア国の大使館の事務局が鎮座している。
……残念ながら、日本の一等地にどでんと大きな大使館を立てられるほどの金を、この国は持っていない。
その一室では、アストリア国の国歌が流れ、王宮の玉座の絵のカキワリを前にとある式典がなされていた。
カサミ王子の声が響く。
「飛鳥雅貴。汝、我が命を救い、盗賊と暗殺者を退けしその働き、見事であった。アストリアを代表し、我が
友としても礼を言う。私のわがままを聞きながらも、自らの指名を達する働き、まことにご苦労。その功績
を称え、ここにアストリア陽虹章を与える。」
アストリア陽虹章。それは、アストリア王家の授ける最高位の勲章である。
その勲章を持つ者は、アストリアでは王家に準じた存在としての栄誉と扱いを受ける事が出来るのだ。
この勲章の意味するもの。それは、勲章を与えた者の義兄弟である事を許す、ということである。
雅貴はカサミにかしずきながら、言う。
「ありがたき幸せにございます。殿下。しかし、私は……。」
勲章を辞退しようとする雅貴。けっきょくスナイパーを保護する事は出来なかった。
それは、かつての自らが味わった、ボムス・ボーイへの敗北に近い気持ちを再帰させるものであった。
だから、それを受け取る事は出来ない。そう言おうとした。だが。
それを封じるようにカサミは言う。
「いいから、受け取ってくれ。アスカ3rd。私には、残念ながらこれしか出来ないのだ。こういう方法しか、
礼の仕方を知らん。頼む。」
そして、頭を下げるカサミ。雅貴は照れながら慌てて言った。
その言葉は、横にいるじいやの『この名誉を断れば、アストリアの法律に照らして不敬罪と処す』と言う、
無言のコワい圧力もあってのことなのだが。
「そ、そんな、一国の王子が頭を下げるだなんて……!!わかりました、受け取ります!!」
それと同時に、じいやが虹の7色のリボンのついた丸い勲章を台に乗せて持ってくる。
王子はそれを受け取り、雅貴の胸につける。
そして、雅貴の胸には7色の丸い虹を象り、その中央にアストリア古代文字で言う"A"を意味する文字の入っ
た丸い勲章が輝く。
それを満足そうに見ながら、カサミは雅貴に言う。
「そうだ、時計台のお礼に、いいものを見せよう。」
「いいもの?」
いぶかしげに言う雅貴。カサミは満足そうに。
「そうだよ。ここじゃ都合が悪いから、屋上へ行こう。」
ビルの屋上。
周囲の高層ビルや東京タワーの影が差し込んでいる。が。
それでも太陽の光が射してくるのは、ビル自体が微妙な位置にあるからであろうか。
そんな屋上に、カサミと雅貴はいた。横にじいやもいる。
「じいや。」
「はい。殿下。解っております。」
じいやは先日正式に返還されたプロミネンス・クラウンを王子に渡す。
カサミはプロミネンス・クラウンのスタールビーの上にダイヤが来るようにダイヤモンド・リング・ティア
ラをセットする。そして次に、クラウンの頭の上の飾りにブラック・ポイントをかぶせる。
そしてカサミは高々と。
プロミネンス・クラウンを天に掲げた。そして、言う。
「残念ながら、これを今、私の頭に頂く事は出来ない。頭上に掲げる事は出来てもね。アストリアのしきたり
なのだ。」
「革新派だって聞いたけど?」
雅貴の言葉にカサミはウィンクして言う。
「伝統を完全に破棄する事と改革を行う事は全く違う事だ。良い伝統は、残すべきなのだよ。」
「なるほど。」
納得する雅貴。
太陽の光を受け、ブラック・ポイント・クラウンが淡く光る。たぶん、表面に特殊な塗料が塗ってあるのだ
ろう。だが、その光はゆっくりと広がり、プロミネンス・クラウンを包み込むまでになる。
その瞬間。
プロミネンス・クラウンの各宝石が自ら光を放った!!
そして、その光はダイヤモンド・リング・ティアラの台座に吸い込まれる。
光はティアラの台座の中を通る。そしてティアラ自身のダイヤモンドの中に吸収されていく。
そのダイヤをよくよく見てみると中に何かが埋め込まれている。
その『何か』に光が集まった時-----。
クラウンとティアラを包んでいた光が収まった。
そして、次の瞬間。
ティアラのダイヤモンドからぱぁっと虹色の光が放たれる!!
それは太陽の光。太陽のスペクトル。
雅貴は理解した。
これこそが太陽を模す『プロミネンス・クラウン』の真の光。
プロミネンス・スペクトル・クラウン。
それが放つ光は、見る者にこの世に生きる者としての根源的な感動を与えるような------。
「虹のふもとには、宝物が埋まっている。」
カサミの声が響いた。
「その宝物は、試練を越えた者にのみ与えられる、我らアストリアの守護女神プロミネンスよりの至宝。」
そのカサミの声を、雅貴は無言で聞き続ける。
雅貴の心を支配しているのは、懐かしさだった。生命を守る優しい光の放つ、優しい懐かしさ。
雅貴の瞳には、涙があふれていた。
「アスカ3rd。君は、未来を守る。そのために、女神プロミネンスより試練を与えられる。君とルージュを見
た時に、僕はそう感じた。」
王子の言葉は、いつのまにか『王子』としてのものではなく『友人』としてのものに戻っている。
「知っているかい?アスカ3rd。言い伝えによる『試練を与え未来を約束する、女神プロミネンス』とは、紅い
瞳をしているんだ。故にアストリアでは、紅い瞳の少女は試練をもたらし、その試練を越えた先に幸福を約
束すると言い伝えられている。」
王子の言葉をどこか遠くに聞きながら、雅貴は無意識に頷いた。
そして、無言で頷く雅貴に頷き返し、カサミは続ける。
「そうだ。君はこれを見る資格がある。そして、この光の先に続く『未来』と言う名の宝物をその手につかむ
んだ。いつか------。」
今だ無言の雅貴。それでも、カサミはなおも続けた。
「いつか、数ある試練を越え、誰も泣かぬ未来を力強く紡ぐために。その腕に『君だけの女神』を抱くため。
そして、数多き不幸を一つでも少なくするために。そのために、我らアストリアは君にいくらでも力を貸そ
う。」
雅貴の瞳から、涙が流れ続けていた。そして、雅貴はポツリと呟いた。
「これが……これが、俺の両親が守り続けて来たものの欠片(かけら)……。」
雅貴は涙を袖で拭う。心の中で呟く。
(そうだ、正しい。きっと、正しい。俺が。父さんや母さんがやって来た事は、きっと正しい。こんなに感動
する光を守りぬいたのだから。この光と同じ光が照らす街を守って来たんだから。)
そして、決然とした顔で言った。
「俺は、この光を。この先にあるものを守る。守ってみせる。未来を。明日を。俺の全ての力を持って。その
ために、俺はアスカ3rdと名乗って来たんだ。」
プロミネンス・スペクトル・クラウンの光が収まっていく。
そして、元の屋上。雅貴は微笑を浮かべた。
「プロフェッサー、お前の好きにはさせない!!俺は俺の周りの人たちと共に未来(あした)を守ってみせる!!」
雅貴は決然と言い放つ。そして、心の中で呟く。
(これ以上の悲しみを出さないために……。これ以上のつらさを出さないために……。)
それは、与えられた運命の試練への決意だった。
されど。
これから雅貴を待つ試練の道は、今だ誰も知らず--------。
FILE 15 THE END
© Kiyama Syuhei 木山秀平
© 立川 恵/講談社/ABC/電通/TMS
(asuka name copyright from「怪盗 セイント・テール」)
禁・無断転載