Report 9 どこに行った!? -凶器と遺体-
野次馬以外のその場にいる全員に対する簡単な荷物検査が行われたが結局、雅貴が期待したものは出て来な
かった。
荷物検査の対象は、実行委員と演劇部の全員。
「くっ!!もう始末されたのか??」
右手で頭を一掻きして呟く雅貴。
ちょうどそこに周囲の野次馬を掻き分ける様にして3人の人間が現れる。
「雅貴っ!!」
その大声にびくりとその身を震わせる雅貴。
「またやってるのかっ!?探偵気取りもいいかげんにしろっ!!」
大声を張り上げた人物は、雅貴の父親である大貴であった。
彼は、雅貴が事件に関わる事を良くは思っていない。
雅貴がルージュの捜査官をしている事だって、SEPへの所属だって、市長と知事の口添えが無ければ絶対に
反対していたはずだ。
そしてそんな彼の横には母親の芽美と高宮警視もいる。
3人の後ろには数人の警官も。
そんな彼らに雅貴は、振り向いて言う。
「そんな事言ってる場合じゃないよ。事件の解決が先だろ。」
「こいっつ……!!」
生意気な事を言う雅貴にまた何かを言おうとする大貴だが、それを牽制するように雅貴は言う。
「何回も言ってるけど……親父だって、俺を責められるわけ無いと思うぜ。俺は『親父と母さんの』息子なん
だからね。違う?」
「ぐっ……。」
言葉に詰まる大貴。
それを見かねた高宮警視----リナは、ため息をついて言った。
「やめときなさい。アスカ。あなたの負けよ。」
そして、芽美も。
「しょうがないわ。あなた。あの子は強情だもの。あなたと……私にも似てね。いいじゃない。私たちがいる
から、妙な暴走もしないわよ。下手に追い出すよりは……。」
と、穏やかに大貴をなだめる。
妻の言い分は確かに正しい。それに、愛する妻にはよほどの事が無い限りは逆らえない。大貴は大きくため
息をついて雅貴に言った。
「邪魔だけはするなよ。」
「当然。」
雅貴は短く答えて頷いた。そして自分の手帳の切れ端を渡して言う。
「これが俺がざっと現場を見て覚え書きしたメモ。それから、現場写真は真美ちゃんのデジカメね。」
時々、雅貴が昔の自分とダブる事がある。
大貴は最近そう思う事が多くなった。
そして、それ故に雅貴の行動に口出ししきれなくなる事も多い。
先程雅貴が渡したメモにしても、的確にポイントが書き込まれている。
自分がそれを行っても、同じ結果を導き出しただろう。
その息子の成長ぶりに。大貴はいろんな意味で、感心と危惧とを感じていた。
昔に彼をかばって死んだ友人の言葉が思い起こされた。
「雅貴くんはすごいよ。成長を誤らなければ、きっとすごい捜査官になれる。」
あの時は単なる冗談として片付けた言葉だった。だが。
最近、特にそれを実感する大貴。そして、それだけに危惧がある。
雅貴がもしかしたら、自らを過信しすぎて何かを誤らないだろうかと言う危惧が。
そんな父親の内心にも関わらずに雅貴は考え続ける。
(凶器と遺体の残りは……?)
そう。
見つかった(と、言うよりも置かれたのだが)遺体は、首が1つだけ。
他の部分は見つかっていない。それが妙に気になるのだ。
そして、凶器も見つからない。
「高宮警視。体育館周囲には遺体は見つかりません。」
警官が報告する声が聞こえる。
それを聞いて雅貴は思った。
(周囲には無い……。)
そして雅貴はぐるりと回りを見回す。
遺体発見者の女子3人が、緊張しながら母と高宮警視の質問に答えていく姿。
そして、現場である更衣室の外に出る。
更衣室の位置は舞台の両すそ。
そして当時大道具をやっていた女子、実行委員をやっていた女子には全員にアリバイがある。
これは真美が調べた事だ。
雅貴はじっと考え込む。
(女子にアリバイはある。他の女子か?実行委員を名乗るのなら簡単だ。だが……。)
部外者が中や付近にいれば、人目をつかないわけが無い。
しかし、時期は学院祭。その時雅貴は、妹と母の数日前の会話を思い出す。
「もうすぐ学院祭ねぇ。」
母の言葉に恋美が頷いて言う。
「うん。楽しみだなぁ。やっぱり初等部の学院祭とは違うんでしょ?」
「あたしの頃は中等部だけの学院祭だったけどね。」
「パパとママ、一緒にダンスを踊ったんだよね。」
「ええ。そうよ。後夜祭のダンスはね、学院祭の名物よ。」
「いいなぁ。やっぱりあたしもダンスとか……。」
恋美の言葉に芽美は片手のガッツポーズを取り、叫ぶ。
「当たり前よ!!この学院祭の醍醐味は、昼のイベントと後夜祭のダンスと言っていいのよ!!これに参加しない
なら、学院祭に参加しないようなものだわ!!聖ポーリアの卒業生と在校生なら、それを知らないはずがない
でしょ、恋美。」
雅貴はその会話を思い出し、部外者の可能性を捨てた。
(それほどのイベントに出ずして、集まって来た実行委員の目につかないわけが無い。)
今も周囲に野次馬はいるが、この事件が無ければ彼、彼女らもダンスに行っているはずだ。
恋美や晃たちにも気にせずにイベントに出るように言ったあとで、雅貴はここに来ている。
晃は雅貴についていきたがったが『何かあったのなら、かえって邪魔だ』と置いていったのだ。
そのことをじっと考え込む雅貴。
その時。ふと何かの匂いが鼻を突いた。
(この匂いは……。)
先程、女子更衣室の3人に2,3質問をした時に嗅いだ香りだ。若菜と言う少女が犯人にぶつかった時にレモン
の香水のプラスチック容器が壊れてしまい、中身が出てしまったのだそうだ。
もっとも、その香水は男女両用の一般的な市販品。同じ香りがしたからと言って、犯人とは限らない。
だいたい、犯人にその香水がかかったかどうかも解らないのだ。
だが、それでも雅貴は周囲を見回す。
そこには、桜井浩介がいた。
「ちょっと。桜井君。」
浩介を呼び止める雅貴。
振り返る浩介。よくよく見ると、むちゃくちゃ人のよさそうな顔をしている。
なんとなく罪悪感を感じながら雅貴は彼に近づく。
「君、香水なんてしてんのか?」
尋ねる雅貴。浩介の顔に浮かぶ、動揺の色。
だが、すぐにそれは消える。
「あ、解っちゃいましたか?男が香水なんて……って、思うでしょ?」
そう言う浩介に、雅貴。
「いやいや。そんなこたぁ無いよ。20世紀の中盤から後半ならともかく、この時代じゃ全然珍しくない。」
「あ、まぁ。そうですねぇ。」
一瞬浮かんだ動揺の色を隠すように薄笑いを浮かべる浩介。
雅貴はそんな浩介に更に声をかける。
「ところで……きれいなダイヤですね。」
いきなりの言葉に豆鉄砲を食らったような浩介。
「不純物も無い、100%ダイヤ……。ものすごい結晶体と見受けましたが?」
その言葉に、浩介はこう答えた。
「ただのイミテーションですよ。」
その時。
「何ですって!?」
リナの声が鋭く飛んだ。
雅貴は慌てて女子更衣室の中に取って返す。
その雅貴の後ろ姿を不安な表情で浩介はじっと見送っていた。
「そんな、馬鹿な……。」
大貴の呟き。
そこに誰かが言葉をはさむ。
「何が『馬鹿な』なんだよ。」
「ガイシャは芝居に出てた。」
「うん、知ってる。見てたからな。」
「だが、ガイシャの死亡推定時刻は遺体状況から考えても、どう考えてもそれ以前なんだ!!」
「専門家の判断も待たずに、それは無いんじゃないか?」
「興信書士は、一応そうした簡単な技術も持ってるんだ。何らかの重犯罪が起こった時に対して専門家が場に
いない時を想定してな。確かに専門家に出さねば細かい事は言えないがって……。」
大貴はそこで声の主に向き直る。
「雅貴っ!!お前なぁっ!!」
叫ぶ大貴にそれを押さえようとする雅貴。
「ま、ま、ま。」
「何が『ま、ま、ま。』だっ!!」
「親父が興奮するからだよ……探偵は冷静さを失ったら負けだって言ってるのは、親父だぜ?」
「う………。」
「興奮する事を始めとする余計な感情は全ての真実から人を遠ざける……だろ?」
「ああ。」
ブスッとした顔で言う大貴。
「しかし……そうか。」
出ていた芝居。
死んでいる被害者。
雅貴は、じっと考え込む。
女性の声。
芝居。
考え込んでいる雅貴に周囲の声が聞こえてくる。
「まるで、人形みたいな完璧な演技だったのに、こんなにすぐ死んでしまうなんて……。」
「でも、人形みたいにぎこちなかったわね。あの演技は。」
「人形みたいな女を演じるのでしょ?」
発見者の女子演劇部員3人の会話。
「まるで、操り人形みたいな………。」
操り人形。
その言葉に雅貴は反応した。
そして、3人に声をかける。
「すいません。」
「なんですか?」
答えたのは、淳子だった。
「舞台上の声は、ワイヤレスマイクで客席に出すんでしたよね?」
「ええ。」
雅貴の問いに答えていく淳子。
「他の俳優の声は、舞台上で聞こえるんですか?」
「いいえ?マイクの拾いがいいから、ひそひそ小声でもいいもので……。あ、でも、よほど接近してれば聞こ
えてきますよ。」
これは、この時代のテクノロジーのなせる技である。
「なるほど。それでは、劇中でそれほど被害者に接近した人間は?」
「いいえ、いないと思います。彼女の役はソロでの舞台立ちが多いし、人を近づけない役なんです。」
「ほう……。」
微笑する雅貴。そして彼は最後の質問をする。
「あのですね。大道具係のそれぞれの配置はどうなってますか?あらかじめ決まってます?」
「ええ。決まってます。」
「いつも舞台の天井……例えば、キャットウォークみたいな場所にいつもいる担当なんていないでしょう?」
「います。」
「えっ!!」
「桜井君です。自分から望んでなったんですよ。危険だからなり手いないんですけど。いい人ですよ。なにし
ろ、入って来た頃から『自分は新米だから』って、いつも人が嫌がる仕事をしてくれるんです。」
その言葉を聞いて、雅貴は心の奥で呟いた。
(決まったな。だが……。)
証拠が無い。そこに思い当たった雅貴は真美の元へ向かい、彼女に尋ねる。
「真美ちゃん。桜井君はどこにごみを捨てに行ったんだ?」
「決まってるわ。あの3人のうちの誰かよ。犯人はね。」
リナが言う。だが、それに大貴が反論をする。
「いや、女性の声と言うのがな。それよりもこの学院内の女子生徒を洗った方がいい。」
「後輩を疑う気??アスカ!」
「後輩だからってな、特別扱いをしないのが俺の主義だ。そんな事をしたら真実から遠ざかるだけだよ。」
「アスカ……あんた、最近うちの人に似てきてない??」
「親友だったからな……。あいつの捜査哲学もきちんと受け継いでやりたい。」
2人の言い合いを端で見ながらため息をつく雅貴。
その両手には2つのごみ袋が握られている。
ここのごみ処理は、イズミ・クリーンサービス・インダストリアル(ICI)のごみ分子分解式発電装置を使用
している。ゴミを原子分解する事によって得るエネルギーを自家発電に使い学園の電気をまかなうと言う、ご
み処理と発電の双方が解決する優れもののゴミ処理装置なのだ。
その装置にかけられる寸前だったゴミ袋を雅貴は取り戻して来たのだ。
そして、雅貴は口を挟む。
「犯人は、女の子なんかじゃないよ。」
© Kiyama Syuhei 木山秀平
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