Report 10 終章:そして真実は


「先輩!やっと解りましたよっ!!誰が今井裕也かっ!!」
 今井裕也。岡山の事件の犯人。
 私立A学園の在籍。そしてこの年の夏に岡山から姿を消し、聖ポーリアに行ったと目される男。
 だが、聖ポーリアに今井裕也の名はなかった。
 彼の学校内関連書類には彼が死んだ事になっている。
 だが、いろいろな調査によって、ようやく突きとめたのだ。
「あの野郎、整形してたんですっ!!それから、書類の偽造も!!こんな事してばれないなんて、どこかの組織が
 かんでますよ!これは!!」
 理が興奮して木山にまくしたてる。
 彼らは知らないが、既に今井の復讐は成ったばかりなのである。
 そう。既に学院祭の当日。
「で?奴の新しい名前は?」
 尋ねる木山に理は答える。
「桜井ですよ。桜井浩介。」
「よし!!早速飛鳥ちゃんに電話しよう。」
 携帯を持ち出してボタンを押す木山。
 その横で理は更に呟く。
「あの野郎、腹話術師ですからね。トリックを使うにしてもその関係でしょう。」

「今井裕也??」
 岡山のセンセこと木山よりの電話に、驚く雅貴。
「どうして驚いてるんだ?飛鳥ちゃん。」
「いや、いろいろありましてね……。そうかぁ。今井裕也だったのか。桜井君が。」
「知ってるのか?」
「母さんの部屋にある、芸人名鑑で名前だけはね。」
「何でそんなもん……。」
「母さんや源じいちゃんの名前があるかな〜〜とか思って読んだだけですって。」
「あ、そ。」
「確かに、彼なら可能だ。女性から老人まで7色の声を持つ腹話術師……。」
「はぁ?」
「そう書いてあったんですよ。ちょうどいい。センセ、ありがと。でも、情報遅いよ。」
 要点を得ない会話に、木山はいぶかしげに尋ねる。
「どう言う事だよ。その情報遅いってのは。」
「もう既に、殺人事件は終わってるってことですよ。それじゃ。」
「何だって!!おい、こら!!詳しく説明してくれ!!!飛鳥ちゃん!!!!」
 センセの叫びにもかかわらず、PHSを切る雅貴。
 そして、ため息一つついて言う。
「彼の声を知らないからとは言え……何たる迂闊っ!!」
 PHSがかかって来たために地面に降ろした半透明のゴミ袋を、再び両手に持って雅貴は父の元へ急ぐ。
 全ての真実を、明らかにするために。

「そう。犯人は女の子じゃない。」
 雅貴はそう断言する。
「何言ってんのよ、雅貴くん。女の子の声がして、それで……。」
「そこが落とし穴だったんですよ。リナおばさん。」
 きっぱりと言う雅貴。そして更に続ける。
「つまり、ですね。男の子が女の子の声を出していたんです。それなりの訓練を積めば、結構可能なもんです
 よ。ハスキーな女の子の声ってのは。」
「確かにそうだが……。だが、それなら一体犯人は誰なんだ?そこまで言うからには目星はついてるんだな?」
 父の声に、雅貴は頷きそして言う。
「すぐに証明してやるさ。声のことも、死体の他の部分と凶器のありかもね。」
 そう雅貴が言ったその時、タイミングよく真美が浩介を連れてくる。
「雅貴さん。桜井君を連れて来たけど……。」
「うん、ありがとう。真美ちゃん。」
 礼を言う雅貴に対して、浩介が文句を言う。
「どうしたんですか?アスカ3rd。困るんですがねぇ。こっちにも都合と言うものが……。」
「すいません。すぐ済みますよ。」
 雅貴は、そう言うと近くのゴミ袋をその手に持ち、上に上げて言う。
「これが何か、解るかな?」
 それに答えたのは、真美だ。
「それ、あたしが点検したゴミ袋じゃない。桜井君が捨てた。」
「そう。原子分解される寸前で取り戻したよ。危なく、証拠が分解されちまうとこだった。」
「証拠?」
 雅貴の言葉に声を上げる大貴。
「そうだよ。親父。その証拠とは……。」
 雅貴は、ゴミ袋の中をまさぐる。
「この超極細のテグスさ。」
 そう言って雅貴がゴミ袋の中から取り出したのは、傍目にはその場に無い様に見えるテグスだ。
「つまり、犯人はこれで死者を動かしたんだよ。ほら。」
 そう言うと、雅貴はその手を振ってみせる。テグスがきらきらときらめきをもって見える。
「このテグスは、よくマジシャンが使うシロモノでね。うちの母さんも良く使ってる。」
「この細さ、きめの細かさ。トワイライト社の『インヴィジブル・ブランド』の3号だな。」
 言葉をはさむ大貴。
「そうだよ。こいつで犯人は死体を動かした……。」
「ちょっと待って。」
 雅貴が更に続きを言おうとすると、芽美が口を挟んでくる。
「それじゃ、犯人はどうやって死体から声を出させたの?どうやって動かしたの?」
 その芽美の言葉に雅貴はこう答えた。
「それは、おいおい説明するよ。母さん。」
 そこに真美は声を出す。
「そんなものがあったなんて……。見えなかった。それじゃ、犯人はそのゴミを出した桜井君!?」
 雅貴以外の全員の瞳が桜井浩介に注ぐ。
 一瞬の沈黙と緊張感。
 だが、他ならぬ雅貴の声がそれを破った。
「まだ、死体の場所も分からないのに性急すぎるよ。それにね、ゴミの中にテグスを入れるくらい誰だってで
 きるんだ。このゴミ袋に近づける者なら、誰でもね。それで、桜井君に尋ねたいんだよ。」
「なんですか?」
 緊張感から開放されて、ほっと息をついて尋ねる浩介。その浩介に雅貴は尋ね返す。
「このゴミ袋って、誰が近づく事ができるのかな?」
「ああ。誰でも。舞台女優でも、僕ら大道具係でもね。」
「あ、そう……。やっぱりね。それじゃ、いいよ。」
 そう言う雅貴に浩介は背を向けて別のどこかに行こうとする。
 そんな彼に雅貴は、こうあまりにも自然に、かつさりげなく声をかけた。
「ところで腹話術って、大変だね。なにしろ人形繰りと声を同時に出さないといけないんだ。人の目を欺く意
 味では、マジックに良く似てる。そうだろ?今井君。」
 その声ははっきり言って場に溶け込んでいた。
 まったく関係ない事柄にもかかわらず、その話題をする事がさも当然であるかのように。
 そして、浩介は振り向いて答えた。
「ええ。そうなんですよ。でも、マジックに似てると言うのは買い被りすぎですね。もっとも、マジック以上
 にある意味では大変な事なんですが。」
「なるほどね。そりゃ、僕が悪かったかもしれないな。今井君。」
「いえいえ。」
「ところで、君は桜井君じゃなかったかな?今井君。」
 雅貴の言葉に-------浩介の体が。表情が。その時間が、凍りついた。
 全てが凍りついた様に見える時間の中で、雅貴の言葉が朗々と響く。
「驚いたろうね。俺がこのゴミ袋を持ち出して来た時は。ほら。」
 そう言って雅貴は、ゴミ袋の中からもう一つ黒い袋を出してくる。
 雅貴は真美に向かって黒い袋を示して言う。
「半透明のゴミ袋だからって油断したね。それから桜井君は君に中身を見せる時、一番上を見せてそれから、
 軽く中をかき混ぜただけじゃないかな?最下層まで見せなかっただろ。」
 確かに、その通りだ。真美は頷く。
「やっぱりね。だからこいつを見落とした。人の観察力ってのも、結構当てにはならない。それだけ見せられ
 ただけで、表面を見ただけで中も同じと考えるのは人の性みたいなもんだ。よくマジックとかにも利用され
 るよな。こういうのを、心理式視覚型トリックと言っていいかもね。」
 そう言いながら雅貴は先程両方のゴミ袋の中から取り出した黒い袋を破る。
 すると。中から出て来るわ出て来るわバラバラ死体の全ての部分。
 そして、それぞれの部分の両側には同様のテグスが縫い付けてあった。
「なるほど。テグスで繋げてマリオネットを造ったか。死体のマリオネット……悪趣味だな。それを、カモフ
 ラージュするために生首だけを女子更衣室に置いて殺人をアピールした。そうだね。」
 雅貴はそう言うと、ため息をついた。
 そして更に続ける。
「最初にこれを出さなかったのは、君を安心させてから君が今井裕也である事を認めてもらうためだったんだ
 よ。なにしろ、これは君が今井裕也だからこそできるトリックだから。そうだろ?」
 浩介----いや、今井裕也は蒼白な顔で雅貴を睨む。
「今井裕也……理が追ってる今井って言う学生!?」
 叫ぶリナ。それと同時に大貴も叫ぶ。
「今井裕也ってまさか、7つの声色を持つ天才少年腹話術師かっ!!」
「リナおばさんも、親父もあたりだよ。さすが親父だね。母さんの蔵書もきちんと読んでる。」
 雅貴は、そう言うと更に続ける。
「君は女性から老人まで数多い声を持つ。整形したからと言って、それは変わらないはずだ。骨格が変わり、
 声質も変わったかもしれないが、それでも出す声は女性なら何でも良かったからこの殺人を行う君にはあま
 り影響が無かったはずだ。君はキャットウォークでの大道具係だ。舞台の上、天井部からマリオネットを操
 り、彼女の声を出した。ただ、被害者の声は彼女の声でないとならないから結構練習したろうね。今まで人
 の嫌がる仕事をし続けたのも、そのための布石だったんだね。ワイヤレスマイクも----大道具係だから用意
 できる。彼女本人のものか、それとも別に用意したのかは知らないけどね。」

 裕也を追いつめる雅貴を見つめながら、プロフェッサーは舌打ちをした。
「くっ……。アスカ3rdめ……。だが、凶器がどこか解るかな?私の示した隠し場所が。」

「さて……何か反論は?」
 裕也に向かって言う雅貴。
 裕也は、歯ぎしりして呟く。
「凶器は……凶器はどうしたんですか。」
「え?」
「認めませんよ。俺がやったって言うんなら、凶器を示してみて下さいよ。なんですか?今井裕也って。知り
 ませんよ。そんな奴。」
 言い訳にもならない、苦しい言葉。
 雅貴は明朗に言った。
「凶器はレーザーナイフ。君が持ってる。」
 その雅貴の言葉に、裕也は笑い出す。
 そして、雅貴に向かってあざけりの言葉を吐く。
「何言ってんだか。語るに落ちましたね。アスカ3rd!!俺の荷物や身体検査で凶器は見つからなかったでしょ
 うが。」
「そうよ。雅貴さん。そんな……。」
 真美の言葉にも関わらず、雅貴は無言で裕也の左腕をひねり上げる。
 そして、きらりと光る薬指のダイヤを見てあえて良く通る声で呟いた。
「こいつと。」
 更に雅貴はごみ袋からいくつかのICチップのついた機具を取り出す。
「いくつかのこういった機械と」
 最後に-----舞台のスポットライトを自らの視線で指して。
「光源があれば」
 そこで言葉を切り、視線を裕也に戻す。
「レーザーの発振装置ぐらいは作れるだろ。」
 そう。純度の高い宝石は、レーザー発振装置のレンズに使われる。
 20世紀末ではルビーがポピュラーだが、この時代では他の宝石でも殺傷レーザーを作る事が可能なのだ。
 キットさえあれば、小学生でも作れてしまう。(もっとも、そんな物はどこかの裏路地の怪しいBARにでも行
かない限りあるわけが無いのだが。)
 その雅貴の言葉がとどめだった。
 裕也は、体の力が抜けてしまったようにその場に崩れ、呟いていた。
「岡野先輩……。あの人の声はすばらしいものだった。天女の歌声とでも言おうか。彼女は、合唱部で1・2を
 争うソプラノを持ってたんだ。だけど……。」
 その後をリナが引き継ぐ。
「理から聞いたわ。それに嫉妬した2人の演劇部のクラスメートが彼女に特殊な喉薬を盛ったんですってね。
 だけど、その喉薬は彼女には強力すぎた。結局彼女の喉を潰してしまう結果になったの。」
「結局、彼女の声は戻らず、先輩は絶望の中で死んで言った!!解るか!!俺の気持ちが!!!光を奪われた俺の想
 いがっ!!!許せない……愛するものを、俺から光を奪ったものを、俺は絶対に許さない!!そう思った時、あ
 の方が手を貸してくれた。プロフェッサー……。組織『ハーブ』のプロフェッサー・タイムが……。」
 その名を聞いた瞬間。
 その場にいた雅貴・大貴・芽美・リナの4人に、戦慄が走る。
 彼らにとっては、因縁のある『ハーブ』のプロフェッサー。
 雅貴はポツリと呟いた。
「後でゆっくり話してもらうよ。その『ハーブ』とやらについてね。」
 そして、警官に連行されていく裕也。
 雅貴は、それをじっと見続けていた。

 野次馬の中で。
 プロフェッサーは舌打ちした。
「くっ……!!さすがはアスカ3rdと言う所か。だが、このままでは済まさんぞ……。」

 数日後。
 飛鳥家にて雅貴のPHSが鳴った。
 応接間のソファに座ったままでPHSを取る雅貴。
 恋美も大貴も芽美もそれぞれに用事があって、今は家に雅貴一人しかいない。
「はい、もしもし。飛鳥です」
 自分のPHSなので自分の名字しか言わない。
 相手の声が返ってくる。
「アスカ3rd。どうも。」
 どうも声が変だ。ボイスチェンジャーを通している。雅貴はそう判断した。
 他に考えようが無い。
「誰ですか?」
 尋ねる雅貴。そして、電話の向こうの男が答える。
「プロフェッサー・タイムですよ。組織『ハーブ』のね。」
「何っ!?」
「いや、先日は失礼しました。後始末はつけましたから。」
「後始末?」
 タイムの言葉に訝る雅貴。
「ええ。後始末です。TVをつけてご覧なさい。」
 いわれるままに近くのリモコンをとって壁にかけられている薄型TVのスイッチを入れる雅貴。
 そこには、ちょうど1つの事件が報じられていた。
『聖華市・観凪警察署の拘置所にて岡山県とS学院での殺人事件の容疑にて先日逮捕された少年Aが服毒自殺を
 しました。どうやら……。』
 その報道に雅貴は愕然とした。
 これからリナや大貴が、組織『ハーブ』について聞き出そうとしている矢先に……!!
「お前の……!!」
 怒りに声が震える雅貴。PHSを持つ手も力が入り、震えている。
「いやはや。せっかく私が芸術を組み立ててあげたのに、困ったもんです。」
「お前の仕業かっ!!」
「その通りです。余計な事を言われても困りますし、自殺と言う形でかっこよく散ってもらった方が良いもの
 で。」
 そう言って、プロフェッサーは笑う。
 その笑い方が非常にかんに障ったか、雅貴は更に声を荒げる。
「ふざけるなっ!!貴様……何を考えているっ!!」
 それは、あまりにも意味の広い言葉。だが、プロフェッサーはポツリと呟く。
「憎いんですよ。あなたが。」
「何?」
「そして、セイント・テールがね。」
「なんだとっ!?」
「ルシファーの血を引くものに呪いあれ。飛鳥の血を持つものに災いあれ。そして……。」
 プロフェッサーは、そこで言葉を切って一呼吸置く。その上で続ける。
「双方の血をその身に抱くものよ、永遠の地獄の劫火に包まれ、その存在こそが罪である事を思い知れ。」
「プロフェッサー………!!俺が、そして母さんたちが憎いがために、俺の周りに事件を起こすのかっ!!」
「YES I DO.」
 激情の雅貴に対しては、淡々としたプロフェッサーの口調は更に神経が逆なでされる。
 それがプロフェッサーの狙いと解っていても、雅貴は叫ばずにはいられない。
 許せないのだ。それ程に、許せないのだ。
 自分を勝手に憎み、そのために幾人もの命をいとも簡単に奪うプロフェッサーが。
「貴っ様ぁ……!!!!!!」
「これも。以前私が組み立てた芸術である『コピー・テール』事件もほんの序の口に過ぎませんよ。」
「あの事件も貴様が……!!」
 あの事件。そう。あの『コピー・テール』事件(FILE3 「しっぽに捧げる鎮魂歌」参照)の事だ。
「本当に、あなたは私の芸術をことごとく潰してくれる……。」
「芸術だと!?」
「芸術ですよ。あなた、マジシャンの息子なら解るでしょう。人を欺き、騙す快感。達成感の悦び。」
「解るかっ!!解りたくもねぇっ!!!!」
「おや、あなたはマジシャンに向いてませんね。」
「マジックが楽しいのは、魔法のように見えるその不思議さが面白いからだ!マジシャンがマジックをして楽
 しいのは、客が喜んでくれるからだ!不思議そうな目をして、楽しんでくれている事が解るからだ!俺は、マ
 ジシャンは尊敬する。だがな、犯罪者なんか、尊敬できるかっ!!!犯罪は人を不幸にするだけだ!」
 そこまで雅貴がまくしたてると、電話の向こうでプロフェッサーがクスリと笑う。
「何がおかしいっ!!」
「べつに。あなたは正しい。だが、そうでない人もいるんでね。しかし……それを言うなら、あなたのお母様
 は……。」
「違うっ!!お前らと一緒にするなっ!!母さんは、人を救うために自らの力を使っただけだ!」
「行動は似ていても、目的意義が違う……ですか。よく使われる詭弁です。行為は、行為ですよ。」
 そして一呼吸置き、再びプロフェッサーは口を開く。
「いつの日か、またお会いしましょう、アスカ3rd。」
「いいかげんにしろっ!!」
「それでは、いつの日にか。」
 そして、電話は切れた。

「失礼しま〜す。」
 雅貴に呼ばれて、遊びにきた明日香。
 先日フォークダンスを一緒に踊った時に好物を聞かれたのでホットケーキだと正直に言うと、ごちそうして
くれると言うのでやって来たのだ。
「雅貴さん?」
 家に上がって応接間に行くと、そこには雅貴がいた。なぜかPHSを握り締めている。
 明日香は雅貴に近付いてみる。
 雅貴は怒りもあらわなものすごい形相でじっと虚空を見つめていた。
「あの、雅貴さん?」
 声を上げる明日香。
 それに雅貴ははっとして、慌てて明日香の方に穏やかないつもの顔を向ける。
「あ、ゆうきちゃん、来たんだ。ごめんね、恋美の奴、まだ帰ってないんだよ。」
 そう言う雅貴に明日香。心配そうに言う。
「大丈夫ですか?雅貴さん。何かあったんですか?」
「何でもないよ。ほんと。」
「ホントに?」
「何でもないって、言ってるだろっ!!」
 声を荒げる雅貴。びくりとその身を震わせる明日香。
 それに気付いて雅貴は慌ててとりなす。
「ご、ごめん……。あ、そうだ。ホットケーキ、作ろう?ね。」
「は、はい。」
「俺、ちょっとさっぱりするために洗面所行って顔洗ってくるから。ちょっと待っててね。」
「はい!」
 元気に返事をする明日香を置いて、雅貴は洗面所に行く。
 洗面台の前で雅貴は自分の顔を映した鏡を力任せに思いっきり叩いた。
 無意識の遠慮の力が働いて、割るまでには至ら無いが、それでも衝撃と痛みが腕を伝う。
 雅貴は怒りのいまだ含む声で呟いていた。
「プロフェッサー・タイム………!!!そして『ハーブ』!!」
 その怒りは、プロフェッサーに対するもの。そして不甲斐ない自分に対してのもの。
 その雅貴の様子を、ドアの隙間から明日香はじっと見ていた。
 そして、ポツリと呟いていた。
「また、大切な人たちが……。許さない!プロフェッサー!!!」
 そう。
 まだ、戦いは始まったばかり---------。

FILE 12 THE END


© Kiyama Syuhei 木山秀平
© 立川 恵/講談社/ABC/電通/TMS
(asuka name copyright from「怪盗 セイント・テール」)
禁・無断転載