Report 10 終幕:三代目・デビュー!
結局、ボムス・ボーイを死なせてしまった。
雅貴は、自分の無力にさいなまれていた。
「結局、探偵ってのは、他人を幸せにできない……」
病院のベッドの上で、雅貴は呟いた。
今は、雅貴が原発の爆弾を止めたその翌日。
結局、検査入院と言うことで一週間病院に足止めである。
しかし、今日は何か周囲の看護婦が騒がしい。
耳を澄ましてみると、こんな事を言っている。
「ほらほら。あの子。」
「本当だわ!」
それを聞きながら、いぶかしげな顔をする雅貴。
「何だってんだか。」
雅貴は、呟くと面会室に行く。面会室には、各社の今日の新聞が置いてあるはずだからだ。
モーゼの十戒の海のごとくに、看護婦たちが引いていく。
雅貴は、いぶかしげな顔色を更に深めて前に進む。そして、面会室につく。
毎日、読売、朝日などの大手から、名もない地方新聞まで数社の新聞が置いてある。
一つの新聞を広げる。
聖華新聞と言う、地方紙だ。
「ん?」
そこの社会面に大きな見出しが躍っていた。
「誰が書いた?この記事。」
「さぁぁぁぁわぁぁぁぁたぁぁぁぁりぃぃぃぃぃぃっっっっっ!」
フリー記者、佐渡真人の事務所。そこで叫んでいるのは、雅貴の父親。言わずと知れたアスカJr.こと
大貴。
いつものように佐渡を「サル」呼ばわりしないのは、大貴が本気で怒り狂っていることの証である。
大貴は、その叫びの後に今日の聖華新聞を彼の机に叩き付けた。
「なんて事を書いてくれるんだ!」
佐渡は、落ち着き払った顔で言う。
「アスカ。あのな、おれたち記者は真実のみを報道することが使命だぜ。たとえ、地球が真っ二つに
なっても、俺の記事は書き換えないぜ。」
「おまえなぁぁぁぁ!こんな記事が出たらあいつ、増長してまた厄介ごとに首を突っ込むだろが!」
「いいんじゃないか?名探偵が増えて。」
「冗談じゃない!」
二人のけんかはまだまだ続く。
「さすがは、アスカJr.と芽美ちゃんの息子と言うところでしょうか。しかしボムス・ボーイさんは
気の毒なことをしましたが。」
聖良シスターは、今日の聖華新聞を神にささげて呟く。
「もっと、たくさんの迷える子羊を救えそうな気がしますわ。」
「ちょっと!まさか……。」
後ろから親友の声を聞き、聖良は振り向いた。
「どうしました?芽美ちゃん。」
そこには、雅貴の母。芽美の姿があった。
「まさか、雅貴を騒動に………。あの子は、まだ力不足なのよ!」
あの子を騒動に巻き込むのはまだ早い。そんなあの子を巻き込むのはまだ許さない。
芽美の瞳は、そう言っていた。その瞳を見た聖良は、
「わ…分かりましたわ。まだ、あの子に騒動を持っていくのは止めておきますわ。でも……。」
「でも、なに?」
「芽美ちゃん、雅貴君の能力を過小評価し過ぎですわ。」
聖良は見逃していなかったのだ。雅貴が地に落ちる寸前、目にも留まらぬ速さですばやく受け身を
していたことを。
「ね、ね。この人って、恋美のお兄さんよね。」
恋美のクラスメート、章子と美奈が聖華新聞片手に話しかけてくる。
恋美は、嬉しそうに言う。
「ええ。そうなの。」
雅貴は、まさに恋美にとっては『お兄ちゃん』であった。
高宮警視は、今日も捜査2課の課長室の椅子に座っている。
そこに一人の男が入ってきた。
リナは、立ち上がって敬礼する。
「ご苦労。高宮警視。」
男が言う。リナは、男に向かって言う。
「ありがとうございます。何のご用でしょうか。大沢刑事局長。」
大沢 令刑事局長。警察の捜査を一手に握る男。
この日本の公安を一手に握る警察の事務ともいわれる警察庁。
その中でも刑事たちの捜査動向を一手に握ることのできる役職。
それが、刑事局長である。本来なら、リナのような一介の警視には目通りもかなわないほどの人間で
ある。
それが、なぜ自分のところへきたのか。
大沢は、聖華新聞をリナになげてよこした。
「見させてもらったよ。」
それを見て、リナは背筋を凍らせる。無断で民間人に捜査介入されたことの不手際を叱咤されると
思ったのだ。
そんなリナの心中を見透かしたように、大沢は言った。
「君が心配しているようなことではない。実は、彼に会えないかと思ってね。」
「は?」
「彼に会いたいのだよ。」
「なぜですか?」
尋ねるリナ。
「今度、ICPO(国際刑事警察機構)と国連とが合同で発足する特殊警察のプロジェクトに、彼が必要
なのだ。」
「何です?それは!」
「対未成年犯罪、対策刑事。コード・ネーム、SEP(セップ)だ。」
「セップ?」
「スチューデント・エクセレント・ポリス。特殊学生刑事。あくまで、非公式なものだがね。彼にその
モデル・ケースになってもらいたいのだ。」
雅貴は病室で少し微笑を浮かべていた。
片手には、聖華新聞が握られていた。
社会面、トップ記事。
そして、その日の1面記事。
昨日の事件が載っている。
そして、その見出し。
『爆弾魔、聖華市を襲う!魔手をくいとめたアスカ3rd!』
雅貴は、ゆっくりと呟く。
「俺はアスカ3rd、飛鳥雅貴。でも……本当に俺はそれを名乗るにふさわしいんだろうか。」
FILE 1 THE END
© Kiyama Syuhei 木山秀平
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