Report 1 PHSからの招待状
PLLLLL……………PLLLLLL……………
真っ暗な中で、少年は一つの音を聞いた。
PLLLLL……………PLLLLLL……………
音はだんだん大きくなっていく。
彼は、ゆっくりと目を覚ます。
飛鳥雅貴が自分の枕元にある目覚し時計を見ると7時を過ぎていた。
「なんだよぉ………今日は、日曜だろ。ゆっくり寝かせろよ……………。」
雅貴は、ベッドに潜り込んで目覚ましを思いっきり叩く。しかし、まだ音は鳴り止まない。
「うるさいなぁ………。」
無視してベッドの虫となる雅貴。目覚ましなら、少し我慢すればすぐに鳴り止む。
しばらくすると、それにドアを叩く音が聞こえる。
「お兄ちゃん!ピッチうるさいよぉ。」
ドアを叩くと同時に聞こえる妹の声に、雅貴は聞こえている音がハンガーにかけている
上着の内ポケットに入れているPHSからのものであることに気づいた。
母親似の少したれた眠い瞳をこすって身を起こし、ベッドから離れて上着に近づく雅貴。
父親からのお下がりのPHSを取り出して外線ボタンを押し、耳に当てる。
「もしもし。」
不機嫌で眠そうな声で応える雅貴。
「アスカだな。」
ボイスチェンジャーを使ったような声。
「誰です?」
たずねる雅貴。
「今日の新聞と、あんた宛てのメールを見てみろ。」
PHSはそこでぷっつりと切れた。
「なんなんだ?」
雅貴は、いぶかしげな顔をして自分のパソコンの電源を入れる。
メーラをたちあげて自分当ての電子メールを確認してみる。
「俺宛てのメールなんてないじゃないか。あるのはおやじ宛て1通………。」
ふと不安にかられて、そのメールを開いてみる。
彼の父親は私立探偵をやっている。その関係で依頼のメールもあるからみだりに開かない様には
いわれているのだが、この日はそんな悠長なことは言っていられないような気がした。
それには、こう書かれていた。
1・昇降箱の影
2・花の学び舎、守の身元のヒサドメのス
3・甘い風船
4・し灰の黒飴
「なんだ、こりゃ。」
メールを見た瞬間、その意味の不明度に首をかしげる。
とりあえず、プリントアウトして部屋を出る。
居間に行くと、母が朝食の支度をしている。そして、妹が食卓の自分の席に座っている。
「なにいぃぃぃぃぃぃ!」
叫ぶ雅貴。妹に向かって言う。
「おまえが日曜のこの時間に起きているなんて!」
彼の妹、恋美は、それはもうねぼすけさんである。
その妹が起きていることに仰天する雅貴。
恋美は、慌てることなく兄に呟く。
「お兄ちゃんのPHSのせいじゃないの。」
それを聞いて雅貴、
「あー、悪い。」
と言って謝る。そして、朝食の支度をしている母に向かって、
「おやじ、今日も仕事か?」
と尋ねる。母は、落ち着き払った声で
「ええ。そうよ。」
と答えた。
「またかよ。ここんとこ毎日じゃんか。」
雅貴は呟くと、近くにあったリモコンでTVをつける。
TVは、その前日にあったニュースを放送していた。
「………本日早朝、聖華第3埠頭、聖華火薬の倉庫より、大量のプラスチック爆弾が盗まれました。
警察はこの事件を先日脱獄した爆弾魔『ボムス・ボーイ』柊 誠治と関連があると見て捜査を
続けています。」
「この脱獄囚、おやじが追ってた事件だっけ。」
雅貴が呟くと、母親が
「ええ。そうよ。お父さんが捕まえたの。だから、今回の一件もお父さんが出てるでしょうね。」
「そっか。」
雅貴は呟くと、再び自分の部屋に行く。そろそろメールのプリントアウトが終わっているころだ。
自分の部屋に入って、プリンターに近づく。
プリントアウトされた差出人を見て、雅貴は驚愕した。
メールの差出人には、こう表示されていた。
『Boms BOY』
「朝ご飯、できたわよ。」
母親の自分を呼ぶ声。雅貴はプリンターとパソコンの電源を切り、プリントアウトしたメールの
紙を自分の机の上に置く。
食堂へ行き、自分の席へついて食事する。
食事が終わり、洗面所に行き顔を洗って歯を磨いて、トイレへ。
自室に戻って着替えをする。赤いブルゾンにジーンズ。ブルゾンの下は白いトレーナを着ている。
ジーンズはベルトをせず代わりにサスペンダーでつっている。このサスペンダーは雅貴の父親が
中学時代に使っていた代物で母親が彼に子供のころからさせている。いわゆるこだわりと言うやつ
である。
机の上に置いた印刷したメールをポケットに突っ込む。
急いで玄関まで出ようとしたとき、母親から声がかかる。
「どこかへ行くの?」
「ああ。ちょっと友達んとこへ。」
「昼までに帰ってきなさいよ。」
「はーい。」
家を出る雅貴。しかし、彼は友達の家に行くつもりなどなかった。
雅貴は、対決するつもりなのである。父親でさえ手を焼いた爆弾魔と。
そして、父の後を継げるに足る人間であることを誇示するつもりなのだ。
彼の胸ポケットのPHSが鳴る。
アスカ3rdを名乗るにふさわしい事件の、それが始まりだった。
© Kiyama Syuhei 木山秀平
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